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異世界で恋に落ちました  作者: 藤野
第十一話
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2

 「さつき様?何かお考えごとですか?」

 「あぁ…ほら、グランのこと。お礼しなきゃなー、って」


 そこまで言うと、ルーグさんは途端に機嫌を悪くした。忌々しいとでも言うように思いっきり顔を歪めている。あんまりにもあからさまだから、ちょっと驚いた。

 抱きしめてくる力が強くなる。ちょっと苦しい。


 「ルーグさん、ルーグさん」


 力緩めてください、とぽんぽん目の前の彼の腕を叩いてみるけど、緩められる気配は無い。


 「あんなやつ………」


 低い声が耳元で響く。ぞくりと、背筋に震えが走った。

 あの時と同じ声だ。忘れもしない。たった一度だけルーグさんを怖いと思った、あの時のことを。

 小刻みに震える私を、ルーグさんはどう受け取ったのだろう。

 するりと頬を寄せられた。抱きしめられたまま、首筋そっと唇が触れた。


 「さつき様があんなやつのことを考える必要なんてありませんよ」


 そんなことを言うルーグさんに、それはできないと断る。だって、お礼とは私にとって報復なんだから。


 「ルーグさん、なんだか嫉妬してるみたい」


 冗談そう言えば、ルーグさんの動きがピタリと止まった。

 地雷でも踏んだだろうか。内心ひやりとしていると、ルーグさんの口は信じられない言葉を紡ぎ出した。


 「そうですよ」

 「え?」


 耳を疑った。そうです、って…何が?

 足元が崩れていくような恐怖。冷水でも浴びせられた時のように、血の気が引いていく。

 だめだ。これ以上は聞いちゃだめだ。戻れなくなる。

 頭の中で警鐘がけたたましく鳴り響く。逃げようとしてもがきだせば、拒絶は許さないとなおさらきつく抱きしめられた。


 「ちょっ、冗談は……」

 「冗談なものか!!」


 不意に荒げた声に驚いて体が跳ねた。


 「っ私が、冗談でこんなことを言うとお思いですか」


 搾り出された切ない声に、胸が大きく脈打つ。


 誰……?この人は、今私を抱きしめているこの人は、誰なの――?

 私は知らない。こんな、大人の男のような人なんて。


ーーーー本当に……?


 不意に、体を強く引かれて面と向かい会わされる。あの時よりも怖い顔をしたルーグさんが、私を射抜いて逸らさない。


 「どうすれば、あなたに伝わりますか」

 「、え…」


 急に問いかけられて、うまく回らない頭では理解もできない。呼吸なんていう、普段当たり前にしていることでさえままならない。

 動くこともできない私の顎にルーグさんの指が触れる。

 これは、だめだ。

 押しのけようとしても、ルーグさんはびくともしない。離してなんてくれず、ルーグさんは――私に、キスをした。

 今度のそれは、今までのような触れるだけのものなんかじゃなかった。何もかもを奪いつくすような、そんな、深いキス。

 どれだけでも続けられるそれがようやく終わりを迎えた時には、私は自立さえできなくなっていた。


 「冗談だなんて、言わせません。――本気で、あなたが好きなんです」


 朦朧もうろうとした意識の中で、ルーグさんがそう囁いた。

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