第1話
「さつき様ぁああああああっっ!!」
カルヴァン領、カルヴァン伯爵家邸城。
しばらくぶりに帰ってきた私を出迎えてくれたのは、エリザさんとローザさんの熱すぎる抱擁でした。
「さつき様さつき様さつき様――っ!!」
「ああっ、よくぞご無事にお戻りくださいました!さつき様に何かあったらと思うと私はっ、私はぁああああ!!!」
「ぅぐ…………」
く、苦しい…………。
我を忘れて無事でよかったと涙ながらに喜んでくれる美女二人に幸せを感じたのも束の間、今現在私はその美女二人に絞め殺されそうです。
ちょっとルーグさん、あなたこの二人のご主人様でしょ。助けてくださいよ。
恨みがましい目で見ても、ルーグさんはつんとそっぽを向いて助けてくれない。
「心配させるさつき様の自業自得です」
と言うに事欠いて拗ねる子供みたいな人に言葉が出なかった。私だって心配かけた自覚くらいあるんだよ。
「さつき様、本当にいままでいったいどちらにいらしたのですか?」
四方八方探しましたのに、と目元をハンカチで押さえるエリザさんはどこか芝居がかっている。さっきから思ってたんだけど、この人、てかこの人たち、こんな人だっけ?もっとクールというか大人びているというか……とにかく静かな印象の人たちだったんだけど。ちょっとの間会わなかっただけで大分印象が変わった。
「レオハルト領からさつき様の情報が流れてきたと聞いて、本当にぞっとしましたわ」
そう言うローザさんに私は苦く笑った。
ローザさんが言うのはきっと、私がシエラに広めてもらった『いただきます』のことだろう。あれが目印になればいいと思ってはいたけど、本当にそうなってくれるとは思いもしなかった。目の付け所は間違っていなかったけど、ちょっと活躍が遅かったね。
「なんでか、目が覚めたら知らないところにいたんだよねぇ」
惚けながら言い訳する。グランの所業については、私は口外しないことに決めた。
ルーグさんは、レオハルト領に私がいることを知ってから即座に軍を率いてレオハルト領に向かったらしい。私に手を出そうものなら容赦はしないと、それはもう鬼も裸足で逃げ出すような形相だったとヘルバルトさんが言っていた。
ルーグさんは、グランが私を攫ったと知れば間違いなくまた軍を出そうとするだろう。それがわからないほど私も鈍くない。それに、いろいろあったけど少なからず世話にもなったから、レオハルト領では保護されていたことにした。
ルーグさんは「あの男が、本当に……?」と疑っていたけど、私がそう言うならと手を引いてくれた。
それをよかったと思うのは本心だけど、ただそれだけで話をまとめてしまうのは私の腹の虫が収まらない。
だって私誘拐されたんだし。ビンタだって食らったし。
だから後日グランに形ばかりのお礼状を送る際には『格別の配慮を頂き』だとか『早い結婚の知らせを待っています』と渾身の嫌味を書き添えてやろうと決めた。
受け取ったときのグランの顔を想像するだけで愉快な気分になる。ちょっとは嫌な気分も味わえば他人を思い遣る気持ちも生まれるだろう。




