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ぎゅうぎゅうと抱きしめてくるルーグさんに、そろそろ離してくれないかなーと思う。いやね、抱きしめてもらえるのはすごく嬉しいんですよ?またルーグさんに会えたんだなぁって実感も湧くし、嫌だとかって思ってるわけでもないんです。
でもさ、でもさ。それより遥かに勝るものがこの世には存在いたしまして。
「あの……いい加減恥ずかしいんですけど………」
そう、この羞恥心にはどうにも勝てません。
お忘れかもしれませんが、ルーグさんは軍隊というものを引き連れて何処かへ進軍していたわけで。その途中で再会が叶ったわけで。
つまり何がいいたいのかというと、ギャラリーがすごいんです。
兵士の皆さんは気が利くのか利かないのかいまいちよくわからない。ぐずぐずと男泣きに泣いて、私たちを見てくることはないんだけど正直うるさい。当事者の私たちより感動してるよね。
だがしかし、そんなことを気にも留めないのがルーグさんだ。抱きしめられたばかりから今に到るまで、力を緩めることもしなければ何かを言うこともない。私が何かを言ってもそうだ。
「ルーグさん、そろそろ……」
離れて、と。言おうとした言葉は打ちとめられた。
目の前にはルーグさんの顔がある。苦しそうに顰められた眉間。疲れが溜まっているのか、お邸にいたときにはなかった隈が目の下にはっきりと浮かんでいる。触れた唇は、少しかさついていた。
「……さつき様」
ルーグさんが呼ぶ。掠れた声がやけに色っぽくて、余計に恥ずかしくなって私は俯くことしかできなかった。
だって、間違いなくキスされた。他でもない、ルーグさんに。
自覚した途端にまた体中が熱くなって、どうしていいかわからなくなった。
「なん、で?」
なんで、キスしたの?なんで?
答えを期待して待ってみても、ルーグさんは答えてくれない。せっかく一度は離れた体をまた抱き寄せられて、抱きしめられる。
ルーグさんの体は、少しだけ震えていた。
「心配、しました」
「うん」
「もう、会えないかと……っ」
口に出すのも嫌だと首を振るルーグさんは、私が見たことのない弱ったルーグさんだった。
「ごめんなさい、ルーグさん」
「………そんな言葉が聞きたいんじゃありません」
「そうだね。ありがとう」
拗ねたような声で文句を言うルーグさんを珍しいと思いつつ、私はついつい笑った。
私の好きな人は、意外にも子供っぽいところがあったみたいだ。




