3
「ちょっとちょっと、なんなのよ―――っっ!!!」
必死にドラゴンの手指にしがみついて振り落とされないようにしながら叫ぶ。急に牙を剥いたドラゴンはさっきまでの穏やかな気性はどこへやら、ひたすらに空を翔けている。
勢いが増して強くなった向かい風に目も開けられない。
何でこんなことになっているのか、本当誰でもいいから教えてほしい。
だって私、別に何にもしてないよね?ただ中庭でのんびりお茶してただけなのに誘拐されて、食べられる気配もないから小鳥たちとのんびりしてただけなのにいきなりキレられて。
いったい私が何したって言うの?
「ちょっと、このドラゴンって実は情緒不安定だったりするのっ?」
だからいきなり怒りだしたのかと腕の中に抱えた小鳥たちに尋ねてみても、小鳥たちはぴぃぴぃと囀り鳴くだけ。
ええ、ええわかっていましたよ!鳥が喋るわけありませんよね、わかってますよそのくらい!
ああもうっ、どうしてこうもわけのわからない事態に遭うのかな私は!?この世界に来てからというもの、ずっとこうじゃない!
じわりと目尻に涙が浮かぶ。目の際で留まる間もなく風で堰を切り横に流れていくそれは冷たく私のこめかみを濡らした。
本当に、私がいったい何したって言うの。ただの女子大生でしかないのにいきなり異世界に来て、拾われて。それでも頑張って元の世界に帰ろうとして。こんな危ない目に遭わなきゃけないような悪いことなんて何一つしてないのに。
それとも何?異世界で恋をしたのが悪いとでも言うの?
次から次へと、絶え間なく浮かぶ涙は留まりもせずに風に流れてどこかへ飛んでいく。指の隙間から見える風景はさっきから変わらない。重苦しい鎧だか甲冑だかを着込んだ人たちの上を飛んでいる。時折何か旗を掲げているのがわかるけど、それが何の意味を持つのかなんて知る由もない。
いったい今度はどこに行くんだろう。
ただ会いたいだけなのに。帰りたいだけなのに。何でこうも上手くいかないことばっかりなんだろう。
牙を剥いていたドラゴンが、猛々しく咆哮を轟かせる。ドスンと地響きをさせて、ようやく着陸したことがわかった。
ほっと安心したのも束の間、ガチャガチャと金属同士がぶつかり合う音が響く不穏な状況に血の気が引いた。
「くっ………こんな時に……!」
忌々しそうに吐き出されたその声を、私は幻聴かと思った。
だってそれは、私がずっと望んでいたものだった。焦がれてやまない人のもの。
まさかと、ドラゴンの指の隙間から覗いてみた。
鈍い光を放つ鋼で武装した、馬に乗ったたくさんの人たち。掲げている旗は金色で、何か紋章のようなものが織り込まれている。
武装した人たちはそれぞれに武器を構えてこちらを――ドラゴンを威嚇している。
その先頭に立っているのは、一人だけ馬ではない生き物に乗った、よく知っている人。
「ルーグ、さん……?」
口を突いて零れた声は、果たして届いたのだろうか。




