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痛い沈黙が消え去ると、あとはいつもどおりのんびりとした時間だった。グランは即席ホットマスクが気に入ったようで、冷えては温めなおしを繰り返している。シエラはそれに世話を焼いていた。
私はというと、特にすることもないからとテーブルから少し離れたところでまた餌を求めて遊びに来た小鳥たちと遊んでいた。
ごろんと芝生の上に寝転がって、その上に小鳥がぽふんと乗っかる。シエラはそれにいい顔をしなかったけど、すぐに私らしいと苦笑いして流した。
もふもふの羽毛に埋もれながら、ごろんと寝返りを打ってみる。
すると私の動きに合わせたかのように雲が動いたようで、一気に明るさが失われた。
がたんと何かが倒れる音がする。ちょうど正面のほうだったから目を開けて見てみると、グランが険しい顔を青ざめさせて空を睨んでいた。少し下がったところにいるシエラも青い顔は同様どけど、まるで何かに怯えている。
どうしたんだろうと思ったところで、小鳥たちが一斉に、いつになく弾んだ調子で啼いた。
ぼすん、いや、どすん、かな。後ろに何か大きな物が落ちてきたような音と不自然な風。むっくり体を起こして振り返ってみると………………
「――――――め?」
そう、目だ。大きな琥珀色の目が一対、私の真ん前にある。きろりと細い目が何かに似ているな、なんてぼんやりと考え出す。
赤いごつごつした皮は確かめるまでもなく硬いことがわかる。けれどそれは岩石のような硬さではないだろう。ところどころに小鳥を乗せて戯れさせているが、つやつやと光沢のある大きな鱗がある。ああ、爬虫類だとようやく思い至った。
ーーーー時には、もう遅かった。
ぐわしっ!とそれはもう勢いのいい効果音が着くくらい威勢よく体を掴まれる。体を、掴まれた。何に、って目の前の生物の手(っていうか前足?)に。
わ、爪おっきーい。ふっとーい。
なんて他人事のように思っているうちに、目の前の生物は背中に生えたコウモリのような、でも比べものにならない大きく立派な翼をばさりとはためかせた。
そして。
「ひっ………きぃやああああああああああ―――っっ!!!」
「さつっ…!衛兵!衛兵―!!」
私の悲鳴に重なるようにグランとシエラの慌てふためく声が下からした。
空気抵抗、凄まじい強さの風を受けて目も開けていられない状況。ぎゃあぎゃあ騒ぎながらも、頭の中のどこか冷静な部分がこの事態を正確に理解していた。
私、森山さつき、19歳は。今度はドラゴンに誘拐されています。
――――なんで!?




