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試着が完成してから、周りはそれはもう美辞麗句を並べ立てて褒めちぎってきた。あまりにも賛美が過ぎてもう「何言ってんの?」状態。右から左へ聞き流すよね。
でもそうしたらそうしたで、本気に受け取っていないと思ったのか褒め言葉のグレードがさらに上がって勢いも増して、ととんでもない目に遭った。ここで今一度宣言しておこう、私は平凡です。十人並みです。決して美人ではありません。
「さ、お疲れ様でございました。お仕立も申し分ないようですから、このまま完成させるよう申しつけますわ」
そういってシエラよりいくつか年上のメイドさんが背後に回ってファスナに手をかける。
そして引き下ろそうとした、その時だった。
いつもいつも、タイミングがいいのか悪いのか判断しがたい時にグランはやってくる。今回も正しくそうで、背中の中ほどまで下げられた時にノックも無しにグランはズカズカと入ってきた。
「ほう、いい出来だな」
開口一番まじまじと私を眺めてグランは言った。こいつが素直に褒めるなんて珍しいとも思うが、こいつが褒めているのはあくまでもウエディングドレスであって私ではない。別にいいけどね、でもわかってても腹は立つんだよね。
思いっきりそっぽを向いてやれば、あらあらと周りのメイドさんたちが苦く笑った。グランは特に反応なし。
かと思いきや、かつかつとブーツの踵を鳴らして距離を詰めてきて、私の顔を片手で掴んだ。くきって変な音が首からした。痛い。思わず涙目になると、その顔をグランにとくと見られた。
「痛いんだけど」
「もっとさせてやろうか?」
「は?」
何言ってんのコイツ。思った私は正常だ。痛いって言ってるのに「もっとさせてやろうか」ってどういうこと、おかしいでしょ。そんなのに「はいよろこんで」なんて言う人は稀だよ。
馬鹿じゃないの、と罵倒も込めてグランの手を払い落とす。それから数歩後ろに下がって距離を置いた。
「いつまで経っても懐かないな」
「お生憎様、私、犬猫じゃないんで」
そんなやり取りはいままでと変わらない。変わらないはずなのに、グランはそれを面白そうに笑った。
一時はどうなることかとはらはらしていたメイドさんたちは一様にほっとした顔をしている。
グランがシエラを呼んだ。
「どうせ今日も茶会をするのだろう。庭でやれ、私も行く」
「は!?」
グランの言葉に私は素っ頓狂な声を上げた。
来るの!?なんで!?
私の驚きなどどこ吹く風、シエラはかしこまりましたと綺麗に一礼して承諾してしまった。それを受けてグランはまたブーツを鳴らして部屋を出て行く。
今日のお茶会は、波乱万丈になることがほぼ確定しました。ちくせう……。




