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「どうするおつもりですか」
固い声でシエラが聞いた。
「別に。どうもしないよ」
私の答えはきっとシエラには思ってもみないものだっただろう。解せないと眉を顰めていた。
「逆に、シエラは私にどうしてほしいの?」
逃げてほしい?それとも、このままグランと形だけの結婚をしてほしい?
私の質問は意地悪なものだったと自分でも思う。でも私はもう自信を持って主張できる答えがないから。
「旦那様にお仕えする身ですから、当然主の意のままに事を運びます」
主命であるならば白を黒にする。何に変えてでもと決意を示すシエラは、さっきまでとはま逆で強かだった。
邪魔者は排除すると宣言する彼女は見たこともない冷徹な雰囲気を醸し出していて、真剣だった。
正直、グランは好きじゃない。真剣に、でも理性的に物事を考える姿勢はすごいと思う。
グランの望むように流されても、きっと私の扱いは酷いものではないだろう。お互いを利用し合って、不干渉に毎日を過ごしていくと容易に想像がついた。
ですが、不意にシエラが語調を強めた。
「今のあなたに、利用価値があるようには思えませんわ」
まるで人形、と吐き捨てられる。確かにそうだと思った。
「確かに私は旦那様の命であなたに取り入りました。それは否定しませんわ、紛れもない事実ですもの。ですが、私だって嫌々にそうしていたわけではありません」
なのになんですか、その体たらくは。そんなつまらないモノに取り入る価値などありません。
遠慮なんてない冷たい言葉は耳に痛い。でも、これがシエラの本音なんだと、そう思ったら聞かずにはいられなかった。
「挙式は二日後に決定しました」
「そ、っか」
二日後か。なんだか本当に呆気ない。
他人事のようにすら感じる自分の結婚。あまりにも無関心だったからかシエラは盛大な溜息を吐いた。
ゆっくりと私を見据える目には温かみがない。
見せつけるように、シエラはもう一度溜息を吐いた。
「今のあなたはつまらない」
そう言い残して、シエラは部屋を出て行った。
私はまた一人になった。小鳥もいない、本当の一人。
なのに、どうしてか笑いが込み上げてきた。
「………つまらない、か」
本来なら怒るところなんだろうに、不思議とそんな気持ちは一欠けらも湧きあがらない。気が狂ったわけでもない。ただ、つまらないと言われたことが可笑しかった。
「式は、二日後」
シエラが私に伝えた予定。それはきっと、シエラなりの優しさだったのかもしれない。
もう何もできやしないから、さっさと諦めて受け入れてしまえ、っていう意図があったのかもしれない。
でもね、シエラ。私には別の意味に聞こえたよ。
「―――諦めるにはまだ早い」
茫然自失としてる暇があるならぎりぎりまであがいてもがいて、やれるだけのことをしろ。
予定は未定。確定じゃない。
だからこそ、覆す余地がある。




