第1話
起きたとき、窓の外はもう真っ暗だった。目蓋が熱をもっていて、しかも重い。大泣きしてそのまま寝てしまったから腫れたんだろう。
小鳥は私が寝入っている間に巣に帰ったらしい。いた証とばかりに置き残された赤い羽毛一枚がなんだかおかしかった。
紙よりも軽いそれを持ち上げて、何とはなしに玩ぶ。指の動きにあわせてくるくると回った。
―――お前さえいなければ、こんなことにはならなかった。
グランに言われた言葉が頭の中で蘇る。射抜くような眼差しと声を伴って叩きつけられたあの言葉は、きっとグランの本音なんだろう。あれを嘘だと思うには、たとえ私の心を崩すためだとしても迫真に迫りすぎていた。
急激な変化は諍いを生む。その変化が激しければ激しいほど、着いていけず取り残される人は多くなる。
何事にも順序というものがある。何か新しいことを取り入れるには。浸透させるための猶予期間が必要になる。
あの賢いパトリシアが、そんなことに気付けないはずがない。わかっていて、それでもパトリシアは強行を決行したんだ。怨まれることを覚悟して。
きっと、グランもそれをわかってる。だからこそやりきれない。
「さつき様、シエラでございます。入ってもよろしいでしょうか」
ノック音の後から問いかけられる。どうぞ、といつもなら声を張る返事を静かに返せば、シエラがそろそろと入ってきた。
ひどく気遣わしげな様子を装うシエラに、ふっと息が漏れた。
「あの、さつき様……」
「どうかした?」
困惑したシエラに変えず平坦な声をかければ、シエラは口を噤んだ。きゅっとハの字に眉を寄せて私の顔色を窺ってくる。シエラの顔を見たくなくて、溜息を吐いて目を瞑る。今は、微かな衣擦れの音だけでも嫌だった。
「さつ…」
「グランに言われたの?」
シエラの声を遮って投げかける。シエラは目を剥いて固まった。予想通りの反応を示すシエラには苦笑を禁じえない。
どうしてそれを、なんて。顔に全部出てるよ。
「確証は、なかったんだけどね……。でも、なんとなくそんな気はしてた」
気のせいであって欲しいと願ったこと。なのに疑いの黒い靄は実体を持ってしまった。神様というものはとことん私が嫌いらしい。不運というには度が過ぎている。
つくづくやるせないね、最悪だ。
思わず吹き出た笑いは、自分を嘲るものだった。




