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呆然と天井を見上げる。揺らぐことのない見慣れたそれが、今はどうしようもなく憎らしかった。
ぴょこんと視界の端に赤いふわふわが飛び込んできた。目に鮮やかな色彩はもそもそと蠢いて頬を擽ってくる。
「ん………慰めてくれるの?」
返事が来ないなんてわかりきっているのに話しかける。小鳥は応えるようにぴっと小さく鳴いた。
やけに気だるい手を持ち上げて、そっと小鳥に寄り添わせる。伝わってくる温もりに涙が込み上げてきた。
「…………っ」
泣きたくない。泣いたら、負けてしまう。
歯を食いしばって嗚咽を堪えても、限界まで張り詰めた水膜は耐え切れず目尻から頬を滑り落ちていく。
どこまで中途半端なんだろう、私は。
好きでいようって決めたのに。信じていこうって決めたのに。
こんなにも簡単に決心が揺らぐなんて。
信じることがこんなにも難しいことだなんて知らなかった。知りたくなかった。
ぐずぐずと鼻をすすって、痛いくらいに強く目を擦る。それから小さく体を丸めた。
シーツを頭から被ってしまえば外からは私の泣き顔なんて見えなくなる。声さえ漏れればあっけなく崩れ去る強がりだけど、無いよりは遥かにマシだった。
「っ帰りたい………」
本当は、ずっと思ってた。そうだと自覚した時からずっと、それでも気付かないフリをして隠してた。
もう、元の世界に帰れなくたっていい。
そんな身勝手な願望をいつの間にか抱いていた。好きな人の側にいられたらそれでいい、なんて浮かれてた。溺れていた。
でも、今の私はどうしたらいいのかわからない。迷っている。
帰りたいって、私の帰る場所ってどこ?
私の不安を察したのか、小鳥がぐいぐいと頭を押し付けてくる。小さな小さなその体で、自分という存在を主張してくる。
いいかな。今だけ、ほんの少しだけだから。弱音を吐いてもいいかな。
枕に顔を埋めて、すっかり熱の上がってしまった息を吐き出す。
声だけを押し殺して、私は泣いた。
なりふり構わず泣く私の顔は、きっと見れたものではない。でも今はそんなこと、気にならなかった。
泣き入る私を見捨てることなく小鳥は私の側で静かにしている。私以外に誰もいない部屋は嫌味なほど私の嗚咽を響かせる。それが余計に涙を煽った。
特別なことなんて望んでない。ただ、私が私でいられる場所に帰りたいだけ。私を私でいさせてくれる人のところに帰りたいだけ。
なのに、どうして願いは叶わないんだろう。
―――お願い、帰して。
零れ出た私の懇願は、小鳥だけが聞いていた。




