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体から力が抜け落ちる。もがいていた腕が音を立ててベッドに落ちた。体が動かない。なのに、私は小刻みに震えていた。
「そ、んな……そんなの、私にはっ」
「関係無い、とでも言うつもりか?天女であるからこそ、ルーグ=カルヴァンに見初められたお前が?」
グランの言葉が鋭く私の胸に突き刺さる。蒼白になっているだろう私をグランは嘲笑った。
「何を驚くことがある?本当のことだろう。天女でなければ、いかに見目麗しかろうと尽くすはずがない。愛人として囲われるのが精々だ」
「っルーグさんはそんなことしない!!」
否定の言葉は悲痛に塗れていた。
惑わされるな。ルーグさんがそんな人じゃないことは、私が一番良く知ってるじゃない。
必死に自分を立て直そうとしても、止まらないグランの言及がさらに私の心を壊していく。
「お前だって薄々気づいていたのではないのか?品行方正、清廉潔白を気取るあの男が持つ、後ろ暗い一面に」
お前は、騙されているんじゃないのかーー?
言い放たれた言葉に、私は目の前が真っ暗になった。
抵抗も反論も辞めた私を、グランが侮蔑の目で見下ろした。
違うと言いたいのに、本当にと自分の中の疑惑がそれを阻む。
グランは私の弱い所を確実に突いてきた。私が、不安に思っていたことを。
「憐れな女だ。愛した男に騙されて、利用されてきたのだから」
ねっとりとしたグランの口調が耳に入り込んでくる。私の中に侵食して、巣食って、蝕んでいく。
もういいだろう。耳を塞ぐ気力さえ消え失せた私にグランはそう言った。
「もういいだろう。あんな男のことなど忘れてしまえ。同じ利用されるなら、誰だって同じだろう。私にしておけ」
グランの顔が近づいてくる。
一瞬触れた冷たい唇が去るとグランの顔も離れて、硬い指が私の頬を撫でた。
「捨てられる前に捨ててしまえ。私のものになれ。私ならお前を裏切らない」
言い残して、グランは静かに部屋を出て行った。
広い部屋に、私一人だけが取り残されて。
こめかみが温かいもので濡れる。熱を失って冷えていく。
泣いてるんだと、この時になって初めて自覚した。




