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異世界で恋に落ちました  作者: 藤野
第八話
76/134

7

 体から力が抜け落ちる。もがいていた腕が音を立ててベッドに落ちた。体が動かない。なのに、私は小刻みに震えていた。


 「そ、んな……そんなの、私にはっ」

 「関係無い、とでも言うつもりか?天女であるからこそ、ルーグ=カルヴァンに見初められたお前が?」


 グランの言葉が鋭く私の胸に突き刺さる。蒼白になっているだろう私をグランは嘲笑(あざわら)った。


 「何を驚くことがある?本当のことだろう。天女でなければ、いかに見目麗しかろうと尽くすはずがない。愛人として囲われるのが精々だ」

 「っルーグさんはそんなことしない!!」


 否定の言葉は悲痛に(まみ)れていた。

 惑わされるな。ルーグさんがそんな人じゃないことは、私が一番良く知ってるじゃない。

 必死に自分を立て直そうとしても、止まらないグランの言及がさらに私の心を壊していく。


 「お前だって薄々気づいていたのではないのか?品行方正、清廉潔白を気取るあの男が持つ、後ろ暗い一面に」



 お前は、騙されているんじゃないのかーー?



 言い放たれた言葉に、私は目の前が真っ暗になった。



 抵抗も反論も辞めた私を、グランが侮蔑(ぶべつ)の目で見下ろした。

 違うと言いたいのに、本当にと自分の中の疑惑がそれを阻む。

 グランは私の弱い所を確実に突いてきた。私が、不安に思っていたことを。


 「憐れな女だ。愛した男に騙されて、利用されてきたのだから」


 ねっとりとしたグランの口調が耳に入り込んでくる。私の中に侵食して、巣食って、(むしば)んでいく。

 もういいだろう。耳を塞ぐ気力さえ消え失せた私にグランはそう言った。


 「もういいだろう。あんな男のことなど忘れてしまえ。同じ利用されるなら、誰だって同じだろう。私にしておけ」


 グランの顔が近づいてくる。

 一瞬触れた冷たい唇が去るとグランの顔も離れて、硬い指が私の頬を撫でた。


 「捨てられる前に捨ててしまえ。私のものになれ。私ならお前を裏切らない」


 言い残して、グランは静かに部屋を出て行った。

 広い部屋に、私一人だけが取り残されて。

 こめかみが温かいもので濡れる。熱を失って冷えていく。

 泣いてるんだと、この時になって初めて自覚した。

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