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やれやれと溜息を吐く私とは裏腹に、グランの表情は依然として渋いままだ。これは予想外の反応でちょっと驚いた。
グランは一度思いっきり渋面を作ってから、気を取り直すように深い息を吐いて私を見た。
「それがどうした。この国ではそれぐらい誰もが知っていることだ」
そんなことも知らなかったのかと続けられた言葉は、どこか自分に言い聞かせているようにも聞こえた。
グランは、パトリシアにただならない感情を抱いている?
それが良いものか悪いものかはわからなかった。考えようともしなかった。だけど、挑発の材料としては十分だった。
意趣返しの意味も込めて、私はいつにない悪態をつくために口を開いた。
「ほんと、いい迷惑よ。天女だか何だか知らないけど、勝手に祀り上げられて、王位争いにまで巻き込まれて」
「…………なにが言いたい」
「今言ったでしょ、『いい迷惑』って」
聞こえなかった?と馬鹿にして聞いてやれば、グランが言葉に詰まった。いい気味だ。
調子に乗って私はあることないこと散々吐き出した。欝憤が溜まっていた。くるくると次から次に言葉が頭に浮かんで、何にも考えずにそれを吐きだした。
それが、いけなかった。
「―――言いたいことはそれだけか」
ひやりと、氷よりも冷たい声に口が止まる。ひくりと喉が引き攣って、嫌な汗がこめかみを伝った。
「いい迷惑だと?それはこちらのセリフだ。お前たちのせいで、私たちがどれだけ振り回されていると思っている」
「、は…?」
「知らないなら教えてやろうか。初代国王は中途半端な型作りのまま残された国の統制のために国中を奔走した無理が祟り斃れた。その息子のザイアス王は政治の急変改革に反旗を翻した新興部族に伴侶を殺され、自身の息子に王位を継承の後に自害した。ーーー聖パトリシアが齎した栄光の陰の出来事だ」
歴史を振り返ればまだまだある。地を這う声でそう言うグランは憤っていた。
恨み事を吐き出すように、次から次へと私の知らなかったこの国の歴史が、パトリシアの偉業の影に隠れた惨事が吐露されていく。
聞きたくないと耳を塞ごうとすれば両腕を押さえつけられて阻まれた。放せと足掻いてもグランは私の上に乗り上げたまま、私の聞きたくない言葉を連ねていく。
グランの出した最後の恨み事は、私に対してだった。
「ーーーお前さえいなければ、こんなことにはならなかった」




