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って、ちょっと待てよ?
「リーガさん、王命って?」
王命って、あの王命?王様が下す命令?
確認してみると、本当にそうらしい。これに私は本気で驚いた。
「この国って王様いたの!?」
ずっといないと思ってた!素直にそう言えば、滅多に表舞台に出てきませんからねぇ、と苦笑された。
え、なに?王室が日陰って珍しい。
「王室と言っても普段は地方の領主として采配を振るっているんです。ちなみに、初代国王はジャン陛下。ご存知ですか?」
「ジャン………って、あのパトリシアの恋人の!?」
「はい。有名ですよね、お二人の大恋愛の逸話は。聖パトリシア様がお隠れになってからはジャン様が国をお纏めになって、その子孫がその役目を代々継承しているんです」
ジャンさん、一番辛かったはずなのに頑張ったんだ。本当にいい人だったんだね。
「じゃあ、今の国王って誰なの?」
ジャンさんの子孫ってことはルーグさんが当てはまるはずだけど、でもそれだとちょっと変だ。
ルーグさんは、ヴァルガン領の、ルーグ=ヴァルガン伯爵。ついでに言えばグランはレオハルト領のグラン=レオハルト伯爵。
王様なのにグランと同じ爵位って変じゃない?せめて公爵とかになるんじゃないの?
その疑問の答えはリーガさんがくれた。
「現在の我が国では伯爵が最高の爵位なのです。公爵家と侯爵家は子宝に恵まれず数百年前に途絶えました。爵位を継げるのも、聖パトリシア様の血を引く者のみと憲章に定められておりますから」
ちなみに現在の伯爵はお二方のみです、とシエラが付け加える。うげ、と私は思いっきり嫌な顔をした。
え、それって、まさか…………
「私って王位継承争いにも巻き込まれてる……?」
違うよね?違うよね?お願い違うって言って!
願いも虚しく二人は間違いなく肯定した。
まじですか……。天女として繁栄齎せとか何とか言ってたけど、そういう問題もあるんですか。
そうだよね、迷信だけでわざわざ誘拐なんてしないよね。そんな理由があるなら是が非でも欲しいよね。………なんなの、この面倒この上ない立場は!
ああ、暴れたい。思いっきり暴れてこのやり場のない鬱憤を晴らしたい。
しないけどね。仮にも私いま仮病中だからね。自分ひとりじゃまともに身動き取れない設定だからね。ああでも、せめて大声で叫びたいっ!
俯いてぷるぷる震える私の内心を知らない二人は気分でも悪くなったのかと心配してくれる。優しい人たちだなぁ、涙が出そうだよ。この人たちに余計な心配をかけないためにも、脱走成功を果たすためにも、大人しくしてるのが一番いいよね。大丈夫、わかってるよ。でも、でもね。
「………もうやだ…………」
ごめん、泣き言くらいは許してね。
チクショー!神様仏様の鬼畜ー!!
心の中で叫びながら、私はレモンパイに齧り付いた。そしてその美味しさに理不尽にもさらに怒りが燃え上がった。ごめんね料理人さん。でもすっごく美味しいよ。いつもありがとうございます。




