3
シエラがお茶を注いでいる間にリーガさんがパン屑をベランダに撒く。私はソファーから鳥たちが啄むのを眺めていた。首がひょこひょこ動いてて小動物感満載だ。癒し以外の何物でもないよ、本当に可愛い。今の私なら犬派?猫派?って聞かれたら鳥派って答えちゃうだろうね。そのぐらい可愛いの。
「シエラ、今日のお茶は?」
「ダージリンですよ。お茶請けはレモンパイです」
そういって皿を覆っていた蓋を取って見せてくれた。おお、いい感じにメレンゲに焦げ目がついてて美味しそう。楽しみだなぁとウキウキする私にシエラはくすりと笑って、私の前にグラスを置いた。
リーガさんの分とシエラ自身の分もできたのを確認して、鳥たちに餌をせがまれているリーガさんに声をかける。呼べばリーガさんは名残惜しそうにしながらも席に着いた。動物好きなのかな?ちょっと意外だった。
「ん、いただきまーす」
濁りなくアイシングされた琥珀色は本当に綺麗。ぎこちなさを装いながらグラスに手を伸ばしてストローから吸った。口の中が一気に冷えて、飲み込むと体の中からひんやりとする感じがいい。
シエラとリーガさんもほっと一息吐いてるのを見て少し気が抜けた。働くってやっぱり疲れることなんだろうなぁ。現在ニートな自分が本気で申し訳ない。グランのために働くのは嫌だけど!
「そういえば、さつき様が教えてくださった『いただきます』、本当にあっという間に広まりましたよ」
「そうなの?」
「はい。私どもは住み込みですけれど、通い勤めの者も多いんです。彼らが自身の家族や隣人に伝えていったようですよ」
へぇー。昨日の今日でとか、思ったより浸透早いなぁ。耳慣れない、言い慣れないならもっとかかると思ってたのに。
「さすがシエラ、いい仕事するねぇ」
「何を仰います、こんなにも早く広まったのはさつき様のお力あってのことですよ」
「へ?私?」
なんで?と首を傾げる。シエラはもうっ!と頬をぷっくり膨らませて、リーガさんが苦笑いしながら教えてくれた。
「天女の言葉はこの国においては王命をも凌ぎます。それほどに、あなたは尊いお方なのです」
「えー?私がぁ?うっそだぁ!」
私が尊いとかありえない!だって私、こっちでは天女とかなんとか持て囃されてるけど、地球じゃ唯の平々凡々な女子大生だよ?どっかのお嬢様とかでもないし、最高学府に主席で入学した将来有望なエリートとかでもない、ごくごく普通の人間なんだよ?
そう主張しても二人は事実ですからというばかりで困った顔をするからいたたまれない。
変な世界に来ちゃったなぁ。改めてそう思った。




