第1話
「あら……さつき様、また来ておりますよ」
「え?……あぁ、味を占めちゃったんだね」
シエラの言葉に釣られてベランダの方を見れば、また鳥達が来ていた。赤くてもこもこしてて、可愛いの。
この仔達は私が監禁されてからよく来るんだ。窓辺にいるのを見て、食べるかなー?ってパン屑をあげてみたら、懐かれたみたい。
最初はベランダにパン屑を置いてあげてたんだけど、今では大分心を許してくれるようになって、窓をあけたらとことこ歩いて中に来るようになった。
シエラに窓を開けてもらって、鳥達を招き入れる。するともこもこが小さな足でちょこちょこと入って来て、それから私のお腹の上にぽふんと落ち着いた。うーん、可愛い。
ああ、なんでお腹の上なのかっていうと、私がベッドの上に寝転んでるから。真っ昼間からダラけてる、とか言わないでね。これも立派な作戦なんだから。
トリップ当初の無茶があったから体が慣れたのか、実は昨日の時点で筋肉痛は大分和らいでた。これはもうワンチャンスあるか?って思ったくらい。失敗したら怖いからやらなかったけどね。
それで、筋肉が多少増したことを信じて、いつ逃げ出そうかと機会を伺いながらグランを油断させるために仮病を続けているわけです。あいつは時々……って言っても一日に三、四回は来るんだけど、私が自力で身動き取れないってことで勝手に何か話して勝手に帰ってく。手を出して来ることもない。何がしたいんだろうね、本当に。
もふっ、とまた一匹お腹の上に乗ってきた。二匹が寄り添いあってるのを見るとすごく癒される。それにしても不思議なのは、この仔達、鳩よりも大きいくらいなのにほとんど重さを感じないんだよね。見た目も相俟って本当に綿菓子みたい。可愛いなぁ、って笑顔で見てたら、次から次へと鳥達がやってきて、瞬く間に私はもこもこ塗れになった。
「あらあら、本当に懐かれましたねぇ」
そういってシエラが一匹を持ち上げようとする。でも鳥達は何故かシエラには懐いていないようで、シエラの手が触れるより先に動いて逃げた。
落ち込んでないかな、とシエラを見る。シエラはすぐに、嫌われてるみたいですって苦笑いした。
「シエラ……」
「はい、なんですか?さつき様」
にっこりといつものように笑うシエラに少し躊躇いながら体を起こしたいといえば、シエラはすぐに手を貸してくれた。背中の後ろにたくさんのクッションを積み上げて、それに持たれて落ち着く。
それからシエラは、パン屑のついでにお茶も淹れてくると言って部屋を出て行った。
鳥達と私だけ取り残された部屋で、ゆっくりと鳥達を愛でる。背中の辺りを撫でてやりながら、私はシエラが出て行ったドアの方を見ていた。
嫌われてる、と苦笑いして言ったシエラ。でも、私はその直前の一瞬を見てしまった。全ての表情が落っこちたみたいに無表情になったシエラを。
(シエラ………)
今ここにいないシエラが、どうしてか凄く怖いと思った。




