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「表面のゼラチン質にはコラーゲンがたっぷり含まれていて、食べるとお肌がぷるぷるになるんですよ」
「それは嬉しいね」
潤いお肌は女の子の憧れであり命だと思う。綺麗なお肌、大事だよね。
というわけで結局、私はぺろりと目玉もどきのリゾットを完食した。
「ごちそーさまでしたっ」
ぱちんと手を合わせてお決まりごと。シエラは何だろうという顔をしていた。こういうのは確かに独特の習慣だから馴染みがないのも仕方が無い。
……………あ、そうだ。
ピンと閃いた。なんで今まで気づかなかったんだろう、私。こんな当たり前のことなのに。
「シエラ、ちょっとお願いがあるんだけど」
「なんでしょう?」
聞く姿勢をとるシエラに、大したことじゃないよと前置きして、私は思いついた事を口にした。
「“頂きます”と“ごちそうさまでした”を広めてほしいの」
「いただ………え?なんですか、その二つ?」
耳慣れない言葉に首を傾げるシエラに、私は一言挨拶だと結論を教えた。
「ご飯の前と後に言う挨拶でね、“頂きます”は“命を頂きます”。野菜だとかも生きてるでしょ?その命を貰って生きることに感謝する言葉なの。“ごちそうさま”は、ご飯を作ってくれた人に感謝する言葉だよ」
「感謝、ですか……」
「そう、感謝。感謝する心を忘れたら人間ダメになっちゃうんだよ」
かくいう私は、この二つを言い忘れることが少なからずあるわけだけど、ここでは言わないでおく。目的は別にあるからね。広まればそれで良し。
シエラは興味深そうに、何度も“頂きます”と“ごちそうさまでした”を繰り返した。もう一押し、かな?
「あのね、何かして貰ったら“ありがとう”って言うでしょ?それとおんなじことだよ。お礼を言えないような人を誰も信用しないし、今はそうじゃなくても、いつか離れて言っちゃう」
人って優しいけど薄情な面もあるんだよ、と締めくくれば、シエラは感心したように吐息を漏らした。
「たった一言なのに、とても大きな意味があるのですね」
「そう!だから、是非広めてほしいの!」
押しの一手を緩めない私に、シエラはわかりましたと大きく頷く。お任せください!と胸を張るシエラがすごく頼もしく見えた。
「早速、今日中にでも領土中に広めますわ!」
「わあっ、シエラかっこいい!素敵っ!」
やんややんやとヨイショすれば、それには照れたのかシエラははにかんだ。照れ屋さんとか、可愛いなぁ。
「そうとなれば、早速伝えて参りますね。暫くお傍を離れますけれど、何かございましたらお呼びください。すぐに参りますから」
「わかった。ありがとうシエラ、よろしくね」
バイバイ、と足早に退室するシエラに手を振って、思い通りにいったことに私は一人笑みを浮かべた。




