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見せつけるようにゆっくりと、グランの顔が降りてくる。何をするつもりかわかって顔を背けると、そのまま首筋にグランの唇が触れた。
ぴちゃりといやらしい音を耳元で立てられて鳥肌が立つ。弱いところなんて見せたくないのに、体が震えて涙が滲んだ。
「それでいい。大人しくしていれば痛い思いなどしなくて済むのだから」
そういって頤を掴まれて、今度こそ唇を合わせられた。すぐに厚い舌が割り込んできて、口の中を暴れまわる。それが暫く続いて、苦しくてもがき始めた頃にようやく口は解放された。
荒い呼吸を繰り返す私とは反対にグランは平然としている。
相変わらずの冷たい目で私を見下ろして、グランは立ち上がった。
今度は何をされるのかと体が強張る。でも警戒は杞憂に終わって、グランはドアの方に歩いて行った。
「また来る」
そう言い残して、パタンと扉が閉まる。
「なんだったのよ……」
好き勝手して、帰って行って。わけがわからないけれど、何もされなくてよかったと安心した。
シーツに顔を押し付けて唇を拭う。ガサガサに荒れたって気にするもんか。……嘘。本当は気にするけど、今だけは気にしない。少しでもあの感覚を忘れたい。
グリグリ顔を押し付けていると、またドアの開く音がした。大袈裟なくらい肩が跳ねて、体中が軋んで痛むのも気にせず振り返る。
居たのはシエラだった。小さなワゴンを隣に困り顔で立つシエラにどうしようもなく安心する。
「さつき様、あの、私……」
「シエラ遅ーい!もう、私お腹ぺっこぺこー!」
おずおずと、多分謝ろうとしてるシエラの言葉にわざと被せて主張する。ぱちくりと目を瞠るシエラが意外にも面白くて、思わず笑い声が堪えきれなかった。
「さ、さつき様?」
いきなり笑い出した私にシエラがおろおろする。そんな姿も可愛くて面白くて、腹筋が攣りそうになるけど、一度ツボに入ってしまえばそうそう抜け出せない。
笑い続ける私にシエラは困惑していたけれど、少しして、今度はシエラも笑い出した。
「ふ、ふふ……っ」
女の子らしく控えめに零れる笑い声。喧しいだろう大きさの私の笑い声。
監禁されているはずなのに笑える自分にびっくりだ。でももっと驚いてるのは、きっと外で見張りしてる人なんだろうね。だって、閉じ込められてお通夜もかくやってくらい沈んでるはずの部屋から笑い声が聞こえるんだから。
もしかしたら驚きすぎて、ひっくり返っちゃってるかも?
さすがにそんなことはないだろうとわかっているけど、想像してみたらまた笑えた。
大丈夫。笑えてるうちは、まだ大丈夫。
自分に言い聞かせて、また一段と大きく笑った。




