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ぐったりとベッドにうつ伏せる。シエラはいない。ご飯を取りに行ったから。正確には作り直しにいった、だけど。筋肉痛で身動きのままならない私は、自分でご飯を食べることもぎこちない。つまり、通常食じゃ食べづらい。だから気を利かせたシエラが厨房に献立を変えてくれるように頼みに言ったってわけ。
今現在、部屋には私一人しかいない。と言っても、また足枷に繋がれたし、部屋の外には多分見張りもいる。変だよね、普通警備強化するのって夜じゃないの?私夜中に逃げ出す気満々だから逆に好都合だけどさ。
にしても、シエラのアレは酷かった。思い出すだけで羞恥心で身悶えしちゃうよ。だって本当に全身隈なく、余すところなく触られたからね。なにあのセクハラ。しかもその後のスキンケアとかも全部してもらったよ。ハーブのパックは気持ちよかったけど、……いや、この先は言わないでおこう。そのおかげで今良い香りなんだし、お肌もしっとりして良い感じなんだし。
そういえば代謝をよくする効用もあるらしいってシエラ言ってたな。筋肉痛にはもってこいだよね。多分。
超回復だのなんだのと薀蓄垂れたけれど、あんなものは本で読んだか保健体育の授業で聞いたか何かの、所詮は生兵法だ。専門的な知識のあるわけではない私は、筋肉痛に何がいいのかなんて知る由もない。精々湿布貼るといいらしい程度だ。
体内に熱が籠るような感覚は、不快というほどではないけれど気になる。ほんの僅かに身動ぎしただけで節々まで軋むんから当然だよね。
なんてことを思っていると、キィ、とドアの開く音がした。シエラが帰ってきた。そう思って悲鳴を上げる身体に鞭打って起き上がる。
ドアのほう見た瞬間、私は顔を盛大に顰めた。 起きなきゃ良かったと心底後悔した。
「………なんで、いるのよ」
意識して出した低い声。嫌なものを見たとあからさまに眉間にしわを寄せる私をそいつは、グランは嘲るように笑った。
「なに、妻の体調が芳しくないと聞いたら、見舞うのが夫の役目というものだろう?」
明らかに楽しんでいる風な嫌味に、本当に嫌な奴だと言ってやる。褒め言葉だ、そういってグランは扉から預けていた背を離し、一歩ずつ、やけにゆっくりと近づいてきた。
近くにいたくない。その一心で体を少しでもずらすけど、思うように動かない体では叶わず、ろくな抵抗さえできないでグランに捕まってしまった。
「触らないで。今すぐ離して出て行って」
「聞いてやる義理はないな。それに、ここは私の屋敷だ。自宅の何処にいようと家主の勝手だろう」
バカにしたような口ぶりにカッと頬が熱くなる。グランはそれにさえ愉快だと喉奥をくつくつと鳴らした。
「シエラは?」
「あれならば暫くは来ない。そう命じたからな」
フンと鼻を鳴らして当たり前だと言うグランを訝しむ。なんでそんなことを命じたのかがわからない。
グランが命じたというのなら、シエラは本当に暫く来ないだろう。私寄りとはいえ、シエラにとってグランは雇用主なのだから。
急に、グランが足枷の鎖を強く引いた。シーツが擦れて、グランの横に連れて行かれる。ひくりと喉が引き攣った。
「いい眺めだな」
私を体の下に引き摺り込んでそう言った。何がいい眺め、よ。この変態。せめてもの抵抗に睨みつけてやれば、それも面白いとグランは嗤った。




