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「きれーだなー……」
だいぶ落ち着いてきた呼吸。それでも私はまだ仰向けになったままだ。
床に大の字になって見る月は、嫌味なくらいにまんまるで綺麗。星が競い合うようにして輝いてるのも、自分のみすぼらしさを突きつけられるようで惨めに感じる。
それでも、空を見上げるのは辞めたくなかった。
ルーグさんも見てるのかな、なんて考えてみる。悲劇のヒロインを気取るつもりはないけれど、このくらいはいいでしょ。
「みんな、今頃何してるのかなぁ……」
思い浮かべるのはルーグさんや、ローザさんやエリザさんや、他の使用人さんたち。きっとみんな、時間的にもう寝ちゃってるんだろうな。私がいなくなってること……気づいてくれてるかなぁ。
さすがにそれは気づいてるか。ルーグさんもみんなも、まめな人たちだもん。そんでもってすごく優しい良い人たちだから、心配してくれるんだろうな。
「っは……やだ、私ってばメンタル弱過ぎっしょ………」
じわりと滲んだ視界。一秒も保たずに水の膜はこめかみを伝ってカーペットに吸い込まれていった。
まだたったの二日しか経っていない。経っていないのに、すごく寂しい。会いたい。
ぐっと腕に力を入れて上体を起こす。壁に爪を立てて、笑う膝で無理やり立ち上がった。
大丈夫。まだやれる。
何度も自分に言い聞かせた。
絶対に帰るんだ。ルーグさんや、みんながいる、優しいあの場所に。
「負け、てたまるか……っ見てろよ、ムッツリ変態野郎……!」
キッと扉を睨みつけて、またスクワットを再開する。
静かな辺りのどこか遠くの森から、フクロウの啼く声が聞こえた。




