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異世界で恋に落ちました  作者: 藤野
第七話
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第1話

 「ふっ……ふっ……ふぅぬっ!」


 深夜に、女らしからぬ声が部屋に響く。誰のかって?そりゃもちろん私のですよ。色気なくて悪かったね。

 なんで変な声を出しているのかというと、理由は簡単。筋トレしてるからだ。

 昨日は結局ずっと寝通したから、グラン曰くの四日後が挙式の日。時間は一分一秒でも惜しい。だから、月が真上に登りきったこんな時間帯にも関わらず私は歯を食いしばって筋トレに勤しんでいる。明日は筋肉痛になることを覚悟して。


 あ、いま運動不足めって思ったでしょ。

 ………否定はしないけどね。でも舐めないでよ、私には雑学がある!


 なんでも人間の筋肉というものは一度ボロボロにして、それを修復していく過程で勢い余って増量したりするらしい。中国の鍼治療なんかがこれを利用してるとかなんとか。

 ちなみに、筋肉修復にかかるのは一日から二日。私の持ち時間ではたった一回こっきりのチャレンジだ。しかも成果も微々たるもの。でも、いまの私にはこれに賭けるしかない。

 今から体力気力精神力の続く限りでガンガン筋肉を痛めつけて、ひたすら寝まくって体力回復筋肉増量を図るって腹積もりなわけ。……なんかちょっとマゾっぽいな、自分で言っておいてなんだけど。

 ああ、いい忘れてた。シエラはもうこの部屋にはいない。他にも仕事があるし、疲れてるのに付き合わせるわけにもいかないからね。水分補給用の水としてデキャンター二つと、アイシング用にブラックカードをたくさん置いて行ってもらって、それからはもうフリータイム。心配そうにしてたけど、大丈夫って見送った。


 「っと………そろそろ、スクワットに、しようかな……」


 ぜはぜはひゅーひゅー喘ぐ肺で必死に酸素を吸い込む。喘鳴(ぜいめい)じゃないよ!……気管支炎とかは起こしてそうだけども。良い子も悪い子もこんな無茶は真似しないでね!

 がくがく震える体に鞭打って、スクワットの体勢を取る。そこからは膝を伸ばしきらないように気をつけてひたすらだ。疲労の溜まった体はすぐにバランスを崩して倒れかけるけど、なんとか堪えて続けていく。


 少なくとも、明日明後日は動けないだろうな。筋肉痛を舐めちゃいけない。あれは本当に酷いんだから。

 でも、私は一度極限を経験してる。ルーグさんに拾われたばかりの頃の、指の一本も動かせなくなる筋肉痛。あれに比べたら、明日から味わう筋肉痛なんて軽いものだ。……………多分。

 愛の無い結婚なんて真っ平ごめん(こうむ)る。ルーグさんを好きになる前だったら、もしかしたらここまで必死にならなかったかもしれないけど。でも好きになっちゃったんだから、言えないなりにせめて操立てくらいはしたいよ。


 「っわ……!」


 ついに体は崩れ落ちて、べじゃっと情けなく床に倒れた。カーペットが幾らか衝撃を吸収してくれたみたいだけど、摩擦で軽い火傷をしたみたい。ヒリヒリして地味に痛い。体の力が一気に抜けて、手も足も棒みたいになる。

 天井がバカみたいに遠い。ちょっと視線をずらしたら、窓を通り越して空が見えた。


 満月のせいか夜空がすごく明るい。排気ガスとかで空が汚れてないんだろうね、星もすごく輝いてて、しかも数も多い。星の数ほどって表現の意味がよくわかる。すごく綺麗。

 地球ではもう見られなくなった光景。こっちに来たばかりの頃は、なんで私が、って思ったりもしたけど、こんないい物を見れたんだから、そうそう悪いことばっかじゃないんだよ、やっぱり。単純だけどそう思った。

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