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「まだ見つからないのか!!」
ルーグの吠えるような一喝に使用人たちが怯える。ばたばたとけたたましい足音が屋敷中を走り回っている。
明らかな異常事態。
さつきが消えた、その報せが屋敷内に広まるのに時間はかからなかった。
荒らされた形跡のない部屋。鍵の空いたテラスへ続く窓。
テラスの石畳には僅かに血痕が残されており、テラスのすぐ下の草木は複数人で踏み倒された跡があった。
拉致、誘拐。答えはすぐに導き出せた。
ルーグは報せを受けて即座に屋敷内を隈なく捜索させた。使いを飛ばして領境の関所にも通達した。
けれどどちらからも、芳しい報告が届かないままに夜が更けた。
関所を通らず領外へ出たとするなら、相手側は空路で逃走したことになるが、人数が多ければ地上からの目撃証言も出るはずなのにそれもない。
じりじりと焦りばかりが募っていく。
(さつき様……っ)
ぎちり。ルーグは奥歯を噛み締めた。
ルーグの心は犯人へと憎悪とさつきの心配とで二分されている。弱った体で攫われた、その事実は間違いなく彼女の心までもを弱らせているだろう。
一刻も早く足取りを追い、救出しなければ……!
ルーグは誰も彼もを急がせた。自分自身も通常の業務を鬼の形相で熟して、隙を見ては彼方此方へ駆け回る。
結果は依然として変わることはないけれど、それでも何かしないではいられなかった。
「さつき様……」
憔悴した声が不釣り合いに優しく音を紡ぐ。自信を持てない彼女は、今どれほどの不安の波に押し揺られているのだろう。
どうかご無事で。
祈る言葉を聞いた者は誰一人としていない。




