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異世界で恋に落ちました  作者: 藤野
第六話
56/134

5

 目を開けてまず見たのは、石造りの天井だった。


 寝るとか気絶するとか、本当に多いよね、私。今時少女漫画のヒロインだってこんな軟弱っぷり披露(ひろう)しないでしょ。我がことながら嫌になる。

 でも望んでのことじゃないから仕方ないかと開き直って、まずは現状把握に努めることにする。

 石造りの天井、壁、床。これはルーグさんのところと同じ。大きな窓もあって、その向こうにはテラスもあるみたい。

 私が今いるのはベッドの上。でも、ルーグさん邸おなじみの屋根付きベッドじゃない。ルーグさんのお屋敷のベッドは使用人部屋以外は全部屋根付きって言ってたから、つまりここはルーグさんのお屋敷じゃないってことになる。この部屋、どう見ても使用人部屋には見えないし。

 なにより、決定的に違うと言える物的証拠もある。


 だってさ………鎖で繋がれてるんだよね、私。


 なんか足首重いなーって見てみたら、見るからに金属製の足枷が私の右足首にしっかり嵌められていたっていう、ね……。やたらと長い鎖の先を辿って見たら、私が今いるベッドの柵のところにがちゃりとかけられてました。


 「トリップの次は監禁かぁ~……」


 これも現実ってちゃんとわかってるんだけど、どうしてもファンタジー的展開にしか思えないから困る。もう少し現実味があればいいのに。あったらあったで逆に困る気もするけど。

 え?監禁されてるにしては冷静すぎる?いやいや、これでも結構精神面にキてますよ?ただメーターが振り切れて一周回っちゃってるだけで。


 --それにしても、どうしようかな。


 床に降りて、うろちょろと部屋の中を歩き回ってみる。それだけの長さはあるけれど、でも扉や窓の外にはにはギリギリ爪先指先が届くか届かないかという絶妙具合だ。

 ベッドを動かそうにもクイーンサイズはある大きさと重量を女の私が、しかも一人でなんて動かせるはずもなく、せいぜい数ミリ動いた位で諦めた。


 じゃあ足枷を壊してしまえばいいと気づいたまでは良かったけれど、この部屋にはそのために必要な道具になりそうな物が無い。

 というのも、この部屋はいっそ異常なほどに殺風景なんだよね。


 広さはある。ルーグさんのお屋敷の部屋よりは小さいみたいだけど、それは比較対象が間違ってるだけだと思う。でも、それなりの広さがあるのに、物が無い。

 この部屋にあるのはベッドと、壁際に置かれた大きな本棚が6つと、小ぶりなテーブルとチェア。これだけだ。

 絵画や花瓶とかも無くて、本当に寝るためだけの部屋とか、そんな感じの印象を受けた。


 逃げる手段が皆目見つからなくて、仕方ないとまたベッドに戻る。ボフンと勢いよく沈み込んだらスプリングが悲鳴を上げた。


 (……なんで、こんなことになってるんだろ?)


 直接の原因は、わかってる。

 気絶するより前、テラスに出たら私は誘拐された。で、その結果として連れ去られた先がここだった。ここまではわかってる。

 でも、その先はわからない。

 私、別にそんな波瀾(はらん)万丈(ばんじょう)なフラグ乱立させてないはずなんだけどな。

 トリップしてきたっていうのは確かにフラグ立てた気がしなくもないけどさ、私かなり大人しくしてたよね?パトリシアみたいに、アクティブすぎるほどアクティブな性質でもなかったもん。毎日飽きもせず自堕落な生活してたのは認めるけど、それでもこんな目に遭うほどのことではないはずだ。………と、思いたい……。

 なのに、なんで私は今知らない場所の知らない部屋にいて、しかも監禁までされてるんだろう。


 「帰りたい……」


 どっちにでもいいからとにかく帰りたい。私の知ってる人がいる、私の知ってるところに。

 ぐらりと視界が揺らいだ。涙だけのせいじゃない。気が弱くなったからかな、ぶり返したのか熱が上がったみたい。一気に倦怠感に襲われて、目を開けているのも辛くなってきた。

 逃げるために何かしなきゃ。頭ではわかってるのに体が動いてくれない。


 「かえり、たい……」


 帰りたい。帰りたい。

 溢れた涙は目尻を伝って、私のこめかみを冷たく濡らした。


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