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異世界で恋に落ちました  作者: 藤野
第六話
55/134

4

 目が覚めるとベッドの屋根が飛び込んできた。

 あの後私は気を失ったらしくて、ルーグさんたちが慌てて担ぎ込んだらしい。ちなみに、原因は発熱。ようやく一息ついた頃だから、疲れが溜まってたんだろうって。気づかなくてすみませんでしたって三人に謝られちゃった。三人が悪いわけじゃないのにね。

 で、過保護な三人に完治するまで絶対安静と言い渡された私はやることもなくて暇で暇で仕方が無い。滅多に熱出すなんてなかったから、時間の潰し方もわからない。コッチコッチと鳴る時計の音聞きながら、ただぼーっと時間を過ごしている。

 でも、ぼーっとしてるって言っても何も考えてないってわけじゃない。こういう弱ってる時こそいろんなことが頭の中をぐるぐるしてしまうみたいで。しかもそれがネガティブな方向にいっちゃうから、自分らしくないって余計に思っちゃって、落ち込んじゃうんだよね。


 「よ、っこいしょ」


 わざとらしい声を出して、ベッドから降りてテラスに向かう。過保護三人組は私がベッドから動くのにもいい顔をしないけれど、寝てばっかりじゃ逆に疲れるし落ち込むしで治るものも治らないでしょ。

 そんな自己弁護をして、窓を開けた。瞬間風が吹き込んで、気持ちいいと感じる。いくら窓が大きくても、やっぱり太陽の光を浴びるっていうのは大事らしい。ちょっと外に出ただけなのに、すうって心が軽くなった気がするから。

 広いテラスの淵に頬杖をついて見下ろす景色は緑がいっぱいで、その中にちらほらとまばらな赤や白だとかが際立って見える。

 綺麗だと心底思う。地球に、元の世界に帰りたいけど、そうなったらこの景色ももう見れなくなっちゃうんだよね。それはちょっと勿体無いな。

 それでも、名残惜しくても早く帰りたいと思う。早く帰って、忘れるのはきっと無理だから、いい思い出にしてしまいたい。だってどうせ実っても実らなくても結果が変わらない不毛な恋なんだから。せめて綺麗なままで終わらせたいよ。なんて、臭いセリフだけど。でも本当にそう思う。


 ぐっと上半身を乗り出してみる。お腹が圧迫されて少し苦しいけど、遠くのものがほんの少しだけ近くに見えた。

 その中に、きらりと何か輝くものが一つ。

 木の中にあるらしいそれが何か気になって、さらに身を乗り出してみる。それでも見えない。何の効果もないだろうけど手で目元に影を作って目を凝らす。

 葉っぱの隙間から見えるキラキラしたものはやっぱり見えなくて、もう少し身を乗り出してみた。

 途端に、かんっ!という、何かが跳ね返るような音。それと一緒に何かがこっちに、私に向かって飛んでくる。


 「、え?」


 咄嗟に頭を庇った腕をみる。巻きついているそれは、鎖。


 なんでこんなものが?


 首を傾げて、答えを導き出すよりも先に鎖の先が強く引かれた。踏ん張る間もなくテラスに体の半分以上が乗り出して、バランスを崩して落下した。

 風が下から吹き上がって、一瞬体が浮いた。でもそれを感じたと自覚した次の瞬間には、私は体の自由も視界も奪われていた。

 地面にぶつかった痛みはない。落ちる時に見た。私が落ちたのは、広げられピンと張られた大きな布の上だった。それがトランポリンやクッションの役割を果たして、怪我だとかの異常は(まぬが)れたけれど、それはすぐに私を袋詰めのようにしてしまった。


 「っちょ、誰!?何するのよ!!」


 布袋の中から腕を突き出したりもがいても外が見えることはなくて、でも誰かが持ち上げたのか袋ごと不自然に浮いた。


 「天女も案外トロいな」

 「結構なことじゃねぇか。そのおかげで俺たちはこうも簡単にこいつを捕まえることができたんだ」

 「違いねぇ!」


 ガハハ!と粗雑な笑い声が聞こえる。

 捕まえるって何?私を捕まえてどうするの?

 怖くて逃げたくて、さらに激しく暴れる。すると布の隙間から細いストローみたいなものが差し込まれた。顔に刺さるかってくらい近くまできたそれが、プシュッと音をさせて何かを噴き出した。吹きかけられた気体に咳き込んで、その度に少しずつ体内に取り込んでしまう。


 (しまった、こういう時は息を止めるんだった…!)


 気づいてもそれはもう後の祭りで、不自然なほど急速に意識が遠のいて行く。


 「……る…、ぐ……………さ………」



 そこで私の意識はぷつりと途切れた。

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