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異世界で恋に落ちました  作者: 藤野
第六話
54/134

3

 Q.現状について説明せよ。

 A.わかりません。





 私は現在何故か、な、ぜ、か!身動ぎも許されない体勢でお茶を飲んでいます。ちなみに今日はアンバーティー。アンバーは琥珀のことね。琥珀自体樹液の塊だからか、紅茶にメイプルシロップ入れたような味。とにかく甘いそれを、私は本当にわけがわからないんだけど、…………………ルーグさんのお膝の上で飲んでいます。横抱きっぽく座らされて。


 「お味はいかがですか、さつき様?」

 「へぇっ?あ、は、そそそうですね、美味しいですよっ、甘くて!」

 「そうですか、それはよかった」


 何が良かったのなんて聞けないくらい、今のわたしのアタマの中はクエスチョンマークで溢れかえってる。

 だって、最初はちゃんと向かい合った席でほのぼの~ってしてたんだよ?そしたら、急にルーグさんが立ち上がって、どうしたんだろうなーって思ってたらひょいって軽々と抱き上げられて、あれよあれよとお膝の上に……。

 本当になんでこんなことになってるんだろ……。ああもう、恥ずかしいー!

 叫びたい。猛烈に叫びたい。あ、別に君が好きだー!なんて告白はしないよ?ただあー!とかうぎゃー!とかって叫びたいだけ。私はバスケなんて体育の授業くらいでしかやったことないので。


 あ、話が逸れた。なんで叫びたいかっていうと、その……エリザさんとローザさんの目が、ね……。すごく生暖かいというか生ぬるいというか……。僕もう六歳なんだよ、大人だよ!って大人ぶる子どもを見守る時みたいな目と笑顔でずっと私達を見てまして。

 お願いやめて!そんな目で見ないで!居た堪れない、物凄く居た堪れないの!

 私の心中の叫びなんて届くはずもなく、結果として私は給仕に控える二人をそわそわと気にしながら俯いて黙り込む他ありません、はい…。


 「あ、あの……ルーグさん?」

 「はい?」

 「この状況はナニユエでしょうか?」


 引き攣る片頬に気づかないふりをしながら声の震えを抑えて聞いてみる。お願いだからせめて真っ当な理由を!


 「気分です」


 うわーお。きっぱり言い切りやがりましたよ、このお人は。そうだよね、ルーグさん真面目で優しいけど結構わけのわからないところあったもんね。

 知ってたはずなのにがっくり意気消沈した私の頭を愛でるように撫でながらルーグさんがアンバーティーに口を付ける。私はそれを思わず目で追って、何度目かわからないけどまた見惚れた。


 (綺麗な人……)


 つくづく思う。伏せがちな目は長い睫毛(まつげ)がけぶるようにして、カップの淵に押し当てられた唇は、女みたいにぷっくりとした厚みはないけど、綺麗な桜色。何から何まで成功に作られたビスクドールみたい。

 私はこっそりため息を吐いた。


 (あーあ、失敗した)


 失敗も失敗、大失敗だ。こんな完璧と言っていいような人に平々凡々な私が恋をするなんて、無謀すぎる。普通なら鼻で笑われるのがオチだ。

 でも、この世界なら、と浅ましくも期待してしまう。私みたいな十人並みの容姿を美しいと評価するこの世界の美意識なら、私にも少しは希望があるんじゃないの?って。まあ、こんな汚いこと考えてる時点でアウトだろうけど。


 「さつき様?どうかなさいましたか?」

 「ん…ううん、なんでもないよ、ルーグさん。そろそろ恥ずかしいから下ろしてほしいなー、って」

 「……そうですか。でも下ろしませんから諦めてくださいね」

 「えー?」


 下ろしてくださいよ、と軽口みたいに言えば、嫌なものは嫌なんです、って腰を抱かれた。肩にルーグさんの顎が置かれて、ルーグさんの息がちょうど耳のあたりを擽ってこそばゆい。

 それはさすがにヤバいでしょ。肩を竦めたりしてその間隔から逃れようとしたら、それを抵抗と見なしたのか腕の力が強くなった。


 「っちょ、ルーグさん?」


 なんか雰囲気怪しいですよ!力のうまく入らない体勢でぐいぐいと胸板を押すと、その腕を挟み込むみたいに、一気に密着させられた。


 「さつき様、」


 耳元で、吐息をたっぷり含んだ声が響いてびくんと体が跳ねた。身体中火が出るんじゃないかってくらい熱くて、心臓が壊れそうなほどばくばくする。


 (目が、回る……)


 息の仕方がわからなくなって、酸欠からかくらくらした。逆上せる、という言葉が一番近い気がする。耳鳴りも酷い。


 「……、……………」


 ああ、ルーグさんが何か言ってるのに。聞き取れないよ。

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