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異世界で恋に落ちました  作者: 藤野
第六話
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2

 ーーーなぁんて、しおらしくしてた時期が私にもあったんだけどなぁ……。


 予想に反して、ルーグさんは私に大人しくさせてくれません。レディファースト精神もさることながら、ふとした拍子に見せてくる真剣味が私を誘惑して止まない。普段は可愛いっていうか、ふわふわした印象の笑顔なのに、時々すごく真っ直ぐな目で私を見てくる。そういう時のルーグさんは綺麗とかかっこいいって言葉がぴったりで、そのギャップにうっかり本音が出てしまいそうになる。


 自分勝手な考えだけど、卑怯だと思う。諦めさせてくれないくせに、冷めさせてもくれないなんてずるい。しかもこれ、天然なんだよ?私がルーグさんを好きって本人は知らないはずなのに、ひょっとしてルーグさんって魔性の男なの?


 「ルーグさんのばーか」

 「えっ!?さつき様!?」


 何か気に障るようなことしてしまいましたか!?

 焦るルーグさんにそっぽを向く。我ながら子供っぽいことしてる自覚はあるけど、慌てるルーグさんが可愛くて、してやったりって思っちゃう。

 うん、やっぱりルーグさんは魔性の男だ。


 「さつき様~!何か粗相(そそう)をしてしまったなら仰ってください!直しますからぁっ!」

 「知りませーん!」

 「そっ、そんなぁ~!」


 情けない声を上げるルーグさんを振り切ってこっそり笑う。失恋確定の恋なんてしんみりするしかないはずなのに、ちょっと愉快だ。私らしいかもしれない。


 「ローザさーん!」


 ルーグさんを置いてきぼりにして、ていやっ!とガーデンテーブルに向いてたローザさんの背中に飛びつく。きゃって女の子らしい可愛い声で驚かれて、自分も女なのに思わずきゅんとした。


 「さつき様、今日もお元気そうで何よりです」

 「元気ですよ!私は元気だけが取り柄ですもん!」


 そんな他愛ない遣り取りをしてから、今日のお菓子は何?っていつも通りの会話を始める。

 ルーグさんとのお茶が当たり前になってから暫くして、さすがに毎度主人と同席するのは示しがつかないからとエリザさんとローザさんは給仕に徹するようになった。ルーグさんは私が喜ぶなら構わないって言ってくれたけど、他の使用人は納得しないだろうからって断られちゃったんだよね。二人には二人の立場があるから仕方ないこととはいえ、美人さんと一緒に飲むお茶は格別だったのに……思わぬ弊害(へいがい)だ。


 「近頃は大分暖かくなってきましたから、涼を求めて桃のメルバをご用意いたしました」


 今エリザが取りに行ってますよ、と教えてもらって私のテンションは一気に上がった。

 メルバは地球でももともと好きなスイーツだったんだけど、この世界のメルバは地球のとは一味も二味も違うのだ。

 地球のメルバは、バニラアイスの上にシロップ漬けの桃を乗せて、すり潰した木苺のソースを掛けて、アーモンドのスライスをトッピングしてる。

 でもこの世界は地球よりも食べ物の種類が多いから、似てるけど違う味のフルーツも多くある。トッピングに使うナッツ一つをとっても、風味はアーモンドなのに食感はクランチに似たやつもある。味や食感のバリエーションもその分豊富だから、毎日メルバを食べてても飽きがこないっていう素晴らしいメリットがある。

 今日のメルバはどんな味なんだろう。今から待ちきれなくてそわそわする私に、ローザさんと、追いついてきたルーグさんがくすくす上品に笑う。


 「さつき様は本当に甘いものがお好きですね」

 「うん、大好き!」


 満面の笑みで答えたら、ルーグさんが顔を真っ赤にして俯いた。


 (あれ、子供っぽすぎた?)


 どうしようとローザさんを見ると、ローザさんはあらあらと面白おかしいものを見た時みたいにコロコロ笑ってる。


 「あの……ルーグさん……?」


 私、そんなに変なことしちゃいました?

 おずおず尋ねてみても、ルーグさんは真っ赤になった顔の口元を隠したままで何も答えてくれない。答えてよ、って袖を引いたら、今度は頭抱えてしゃがみこんじゃった。

 ねぇ、本当に私何か変なことした?

 困った顔をしてたら下からルーグさんに手首を掴まれて、そのまま引っ張られた。急な事だったから踏ん張りが効かなくて、私はそのままルーグさんに向かってダイブする。ルーグさんは私をしっかり受け止めて、抱き潰すみたいにぎゅうぎゅう締め付けてきた。


 「っちょ、ルーグさん!苦しい……!」


 力緩めてください!と背中に腕を回してバシバシ叩くけど、痛くも痒くも無いとばかりにさらに力を強められる。


 「出る!内臓出ちゃう!グロテスクとかやめて私耐性ないから!」


 ぎゃあぎゃあ叫んでたから、私は気づかなかった。


 「本当にずるいですよ、さつき様……」


 ルーグさんがそんな事を呟いていたなんて、知りもしなかった。

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