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異世界で恋に落ちました  作者: 藤野
第六話
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第1話

 「さつき様、一緒にお茶しませんか?」

 「あっルーグさん!お仕事お疲れ様です!お茶いいですね〜、しましょうしましょう!」


 コンコンとドアがノックされて、ひょっこりと顔を出したルーグさんの提案に諸手を挙げて賛同する。お茶お茶~ってはしゃぐ私をルーグさんがにこにこ見てて、それをさらにエリザさんやローザさんが微笑ましげに見てる。お庭に出てお茶してる時は庭師さんとかもそんな感じだ。


 私がパトリシアと夢で会ってから、もう一ヶ月が経った。

 あの後私が泣き疲れて寝てしまってから、ルーグさんもお仕事に疲れたのかそのまま一緒に寝ていた。起きた時目の前に綺麗な顔があって心臓が飛び出るかと思ったけど、やっぱり美人は寝顔も美人で惚れ惚れした。


 あの日から、私はずっと嘘を吐いてる。ううん、嘘っていうよりは、演技してるって方が正しいかもしれない。

 ルーグさんが好きだと自覚してから、私は私を騙すことにした。ルーグさんにそういう感情を抱いてるって、気づかないふりをして。


 これは意外にも有効で、気づく前の自分をイメージすれば差も出なかった。周りの人たちも、特に違和感を感じてないと思う。ちょっとやりすぎたかなって時も、今日はいつもよりご機嫌ですね、って温かい目で見過ごされる。

 でもね、やっぱり私、バカだから。ふっとした瞬間にそれを思い出して、すごく虚しくなるんだよね。それで、自業自得なのに泣きたくなるの。

 なんで私は地球で生まれたの、なんて意味のないことまで考えるようになるんだから、私って本当に末期だよね。


 ルーグさんは、あの日から一層私に甘くなった。

 ルーグさんは律儀な人だから、きっと私が一人にならないようにすごく気を遣ってくれてると思う。だってその証拠に、忙しいはずなのに隙を見ては顔を出してくれるようになったし、今日みたいに少し手が空く日にはお茶に連れ出してくれるようになった。


 それに、スキンシップが激しくなった。

 セクハラって思っちゃうほどじゃないけど、ボディタッチが増えた気がする。一日に十回は抱きしめられてるし、抱きしめ方も、ぎゅうって強いやり方じゃなくて、きゅっ、とか、ふわっ、とかが合うような優しくて安心するようなやり方に変わった。

 ここにいるよって、そうやって教えてくれてるんだと思う。


 あと、これが一番問題なんだけど、ルーグさんがキス魔になりました。

 何を今更って思われるかもしれないけど、本当に酷いんだって。ドラマとかで見るような情熱的で激しいようなのじゃないけど、とにかく数が多いの。隣に立ったと思ったら頭とか頬にキスされてるのがもう当たり前みたいだもん。

 一昨日なんて、寝てた時ふっと起きたらルーグさんが私の手を取って指先にちゅってしてたからね!何してるのっていうか何でいるの!?って一気に目が覚めたよ。


 え?その時のルーグさんの反応?

 ケロっとして、どうしてもお顔を見たくなりまして、って。綺麗な笑顔で言われて言葉が出なかったよ。


 ……でも、この一ヶ月で気づいた事がある。ルーグさんは、頬とか額とかには数えきれないくらいキスするけど、口にはしない。されそうになったこともあったけど、何かを思い出したように不自然に一時停止して、口以外のところにする。

 その度に、どうしてって泣きたくなる。

 自分で自分を騙してても騙されてない部分があるみたいで、そういう時には普段隠れてるものが一気に前に出てきてしまう。

 ルーグさんは前よりも私に甘くなったけど、前よりも私に距離を置くようになったと思う。それもこれも、私のせいなんだけど。


 いっそ……いっそね、ルーグさんがもっと酷い人だったら良かった。そしたら私は、自分はなんて不幸なんだろう!って自分を悲劇のヒロインみたいに思えたし、そもそも好きになんてならなかったかもしれない。そしたら、自分に嘘を吐く必要だってなかったはずだ。

 でもね、逆にルーグさんがルーグさんで良かったとも思うんだ。ルーグさんが優しくしてくれたから私は自分を悲劇のヒロインなんて思わないでいられてるし、この世界が好きだと思えてる。

 それにやっぱり、初恋だもん。憧れとは違う、綺麗なだけじゃない、幸せなだけじゃない、本当の恋を知った。全部全部、ルーグさんが教えてくれた。


 自分を騙すっていうのは、楽だけどすごく辛い。それでも耐えられてるのは、ルーグさんがルーグさんだからなんだよ。ルーグさんがすごく優しいから、ずっとそのままのルーグさんでいてほしいって思える。伝えられなくてもいいって思える。

 私の考えは、私が私の都合のいいように改竄(かいきゅう)して誤解して、そうして生まれたものなのかもしれない。

 でも、それでいいんだよ。誤解だろうとなんだろうと、私にとってはこれが事実なんだから。



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