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異世界で恋に落ちました  作者: 藤野
第五話
42/134

9

 どうぞ、と足元に置かれたそれに、ゆっくりと足を伸ばす。ぎしりとスプリングの軋む音がして、針の下の計測値を示す板が回る。恐る恐る、体重を見てみれば。


 「……………え?」


 現在の体重、34kg。

 え、なにこれどういうこと?

 念のために言っておくと、チビでもなければ云々と言ったのは嘘じゃない。160cmまではいかないが、155cmはあるから女性の平均的身長と言えるはずだ。

 なのに、体重34kg?

 何故としか思えない。それとも何かのトリック?

 わけがわからないと首を傾げる私に、やっぱり軽すぎる!とルーグさんと、今度はローザさんも騒ぎ出した。ローザさんはバタンと乱暴に退室して足音けたたましく何処かへ走り去って行った。ルーグさんは目を釣り上げて健康について説き始めた。 すみません、ちょっと黙ってもらっていいですか?気が散ります。


 本当にどういうことなのだろう。

 地球にいた頃、私の体重は34kgよりも断然重かった。具体的な数値は言わないけれど、そんなに軽くなかったことだけは紛れもない事実だ。

 なのに、何度も計り直して見たけれど、その数値が変わることはない。

 原因不明のこの現象。パトリシアの書き残しには体重については触れられていなかったが、もしかしたらパトリシアの時代にはまだ体重計がなかっただけで、また何らかの地球との差異があるのだろうか。

 だとすれば、その原因は重力? 物を持った時に感じている、重さを作り出す原因。この負荷が地球のそれより軽いから、地球で計った時平均的だった体重がこちらで計って軽くなっている、とか?

 理系の範疇(はんちゅう)だし、検証しようにも地球の物質が私自身以外にないから私には正否がわからない。でも(あなが)ちありえない話でもないんじゃないかな。


 とりあえず、現状はそういうことにしておこう。未だに健康について、しかも現在は適性体重について語っているルーグさんに事の子細を伝えようと口を開きかけた、その時。


 「さつき様!!」


 お久しぶりに顔を合わせた般若(はんにゃ)顔のエリザさんにそれは遮られ、サラウンドでの健康講座が開講された。親切からのことだとわかってるけど、どうにも釈然としません。

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