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「さつき様!さつき様、落ち着いてください!」
「はなしてルーグさん!私には運動する義務、ううん使命があるの!」
「なんの為の使命ですか!?」
わけがわかりません!と悲鳴を上げながら私を取り押さえてくるルーグさんは程よくパニクっていると思う。
人間とは不思議なもので、子供はまた別だが、ある程度成長すると自分より振り切れている者を前にした時、興奮が一気に鎮静化して冷静になれるらしい。私もその例に漏れなかったようで、放せと暴れもがく最中にも慌てふためくルーグさんが面白いと思っていた。そして、そんなこと思っている自分が大概失礼だとも。
一旦落ち着いた方がいいのかもしれない、お互いの為に。思い至って、暴れ疲れたのもあって抵抗を辞める。ルーグさんは明らかにホッとして、もう暴れたりしないかと不安がりながらそろそろと押さえつける力を緩めていった。
お互いに一息吐いて、我関せずを突き通していたローザさんが新しく淹れてくれたお茶で喉を潤す。
「さつき様、いったいどうなさったのですか?いきなり外出だの運動だのと……」
「だって!私、こっちに来てから食べてばっかりで、運動らしい運動を全くしてないんです!こんなんじゃ太っちゃう!だから運動するんです、しなくちゃいけないんです!」
「さつき様は軽すぎます!太ってくださった方がむしろ健康的ですよ!」
おいまてこらルーグさんこの野郎。いくらイケメンだからって言っていいことと悪いことがあるぞ。思わずガン飛ばした私は悪くない。
何度でも言おう、私は容姿もステータスもすべて平々凡々であると。
私はチビでもなければノッポでもない平均的な身長だし、体重だって身長相応で軽すぎるということはない。断じてない。胸を張って言うようなことではないが何度でも主張するぞ。誤解は解かなければいけないものです。
こればかりは放置できないと徹底抗戦を決めたところで、はたと思い立った。
この世界の美醜の価値観は、どうなっていたっけ?
平凡こそ美しいと認識するこの世界の人たちの目には、もしかしたら私の中肉中背程度の見た目も軽く見えるんじゃないの?フィルター的な何かがかかって。いや、でもそしたら私なんかよりずっと細いローザさんたちが不健康のように見えてしまうだろうし……。
悶々と考え込む傍らで、ルーグさんが何やら力説している。耳を素通りしていくけど。
「じゃあ、せめて体重計貸してください。どのくらい太ったか把握したいので」
外出が駄目なら部屋で筋トレに勤しむつもりで提案すれば、太ってないって申し上げてるのに、とぶつくさ言いながらもルーグさんが手配するように言いつける。
程なくして、ローザさんが体重計を持ってきた。現代的、地球的なパネルと電光板の体重計じゃなくて、昔懐かしい秤式というのか、アナログな体重計を。




