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逃げ場を失った私をさらに追い込むように、ルーグさんがベッドの上に乗り上がる。二人分の重みにベッドが悲鳴を上げた。逃げようとベッドの端へ体を向けた私の足を掴んで引っ張り、強引に距離が縮められる。
「……さつき様」
ようやく口を開いたルーグさんの声はあまりにも低くて、地を這うような、という表現がぴったりだと混乱した頭の中のどこか冷静な部分で考えた。
「さつき様」
もう一度、名前を呼ばれる。私は答えない。答えられない。何を言えばいいのかわからなかった。
「、ゃ!?」
シーツとの摩擦で捲れ上がったスカートの、肌の露出した部分を指が這う。自分のものとは違う体温。ルーグさんの手だと、悟るのに時間はかからなかった。
「ルーグさん!?」
悲鳴混じりに声を荒げれば左肩を掴まれて、起こしかけていた上半身もベッドに埋れた。ついに私に覆い被さったルーグさんの顔が、ようやく見えた。
暗い中で、濃さを増した碧が揺らめいている。私を見下ろすその目はギラついていて、肉食獣が獲物を睨むそれと酷似していた。
私の中の恐怖がさらに増す。目頭が熱くなって、けれどこめかみを伝って落ちたものは冷たかった。
「私はね、さつき様。貴女を雁字搦めにして閉じ込めるようなつもりはありません」
感情を押し殺して紡がれる言葉。目に如実に現れているのに声にはそれが無くて、アンバランスにまた震えた。
「ですが、……私を拒むことは、赦しません」
言い終わるが早いか、唇が塞がれた。
噛み付く、食らいつく、飲み込まれるような、激しいキス。口の中を熱い物が動き回って、ざらりとした感覚を舌から感じた。
呼吸まで奪われてもがけば、後ろから頭を固定されて身動ぎも叶わなくなる。
酸欠からか体の力が抜けていく。突っぱねようと伸ばした腕はもう力が入らなくて、縋るように彼の胸元を掴むので精一杯だった。
どれくらいそれが続いたのかわからない。ようやく終わった時には、流れていたものも止まっていた。荒い呼吸を繰り返して、酸素の足りない脳で何かを考えようとしてもすべて靄がかっていて不明瞭だ。
シーツの海に沈んだままの私の耳元で、殊更に優しくルーグさんが囁きかける。
「……貴方が望むなら、私はそれを叶えます。私の持てるすべてをもって」
だけど。
「私を拒むことだけは、赦しません。絶対に」
いいですね?と確認ですらないそれに、私はぼんやりしながら頷くしかなかった。




