表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で恋に落ちました  作者: 藤野
第五話
35/134

2

 少しして、ちょっとは落ち着いてきたかな、って時にドアをノックする音が聞こえた。誰かと思ったら、仕事がひと段落着いたのかちょっと疲れた様子の、でも同じくらいホッとしてもいるルーグさん。


 「さつき様……」


 顔をあわせてすぐ、ルーグさんの顔が(しか)められる。え、私何かしたっけ?

 びっくりする私に向かって、ルーグさんはつかつかと来る。それから私の顔を両手で包んで、まじまじと見つめてきた。

 息がかかってしまう、呼吸音が聞こえる距離にある、綺麗な顔。碧の目が、伏せがちな(まぶた)とそれを縁取る長い睫毛(まつげ)(かげ)る。寄せられた眉間は悩ましげで、何かを堪えているようだった。


 「……ローザ、さつき様に何をした」


 今までに聞いたことがない低い声で唸るルーグさんにビクリと体が跳ねた。


 怒ってる。何でかわからないけど、すごく怒ってる。


 戸惑う私の頬をするりと滑ったルーグさんの手は、それから目の近くまで来て止まった。


 「少し赤くなってますね……泣いたんでしょう、ローザに何か言われましたか?」


 決めつけるルーグさんに、それは違うと首を振る。ローザさんは怒られるようなことなんて何もしてない。

 私の弁解は、けれどルーグさんには私がローザさんを庇っているようにしか思えないようで、否定すればするほどルーグさんの目は鋭くなって、雰囲気は剣呑さを増した。

 ずっと穏やかで優しい人だと思ってただけにギャップが激しい。ルーグさんの怒りは私に向けられてるわけではないのに、怖くて仕方が無い。


 どうしよう。どうしよう、どうすればいい?


 考えようにも混乱した頭じゃ思考なんてまとまるはずが無くて、結局は、違う、誤解だとしか言えなくて、情けなくて泣けてくる。


 「ああ、泣かないでください。大丈夫、もう怖いことなんて何もありません。嫌なことなんて何もありませんよ」

 「だから、違うんですっ!私、嫌な思いなんてしてない!」


 どこまでも優しい言葉は、だけど余計に私を焦らせる。

 何度も違うって言ってるのに、どうして聞いてくれないの。

 いろんな感情がごちゃ混ぜになって、どんどん理性の糸が擦り減っていく。涙腺はとっくに決壊して、ボロボロと子供のように泣いている。


 「っも、やだぁ……!」


 ルーグさんの手を振り切って、ぎゅうっとローザさんに抱きつく。細い体からは花の香りが優しく広がって、それにもまたボロボロと泣いた。


 「さつき様!?」

 「ローザさん、なんにもわるくないのに…っ!」


 ローザさんは何も悪くない。私が考えなしだっただけで、泣いたのだって自業自得。なのになんでローザさんを怒るの。違うって言ってるのになんで聞いてくれないの。

 もうやだ。やだよ。


 「ルーグさんなんかきらい…っ!」


 吐き出すように言えば、ローザさんが焦ったように私を呼んだ。落ち着いてください、って宥めてくるけど、感情の(たか)ぶった私は嫌だと首を横に降り続け泣き続けた。

 もう嫌だ。何も見たくない、聞きたくないと、見ることも聞くことも拒む。


 だから、気がつかなかった。


 ルーグさんの雰囲気が、表情が、がらりと変わったことに。事態が豹変(ひょうへん)したことに。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ