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ジャンは研究者だった。崖の上に何があるのかを探求し、崖の上に行く手段はないか模索する研究者だった。
飼いならした翼あるものに騎乗して頂上を目指すも、気づけば反転して麓を目指す異常事態。それでも諦めずに高みを目指す彼を、無駄なことだと周りは嗤った。
それでも、ジャンは上を目指した。
あそこには、何かがある。
何の根拠もない自信を信じて自分を奮い立たせ、ただひたすらに上を目指して年月を過ごして来た。
そんな、代わり映えのしない毎日の中の、ある日のことだ。
「ねえ、そこのあなた!ちょっと手伝ってちょうだい!」
崖の半ばまで浮上した時に、上から掛けられた声。見上げれば、夜空のような黒髪を風に靡かせた女性が一人いた。
「き、君!どうやって崖に!?」
ジャンは驚いた。何年も挑み、けれど果たせなかった崖への到達。それをやってのける女性がいるとは露とも思わなかったのだ。
自分は何年かけても未だに成し得ていないのに、彼女はいったいどうやって辿り着いたというのだろう。
「どうやっても何もないわよ、気づいたらここにいたんだから!そんなことより手を貸しなさい!私は帰りたいのよ!」
叫ぶ彼女に、無茶な要求をと思う。行きたい気持ちは山々だ。それでも行けないのが崖なのに。
せめて行き方をと求めても、気がついたらいたと言うのなら当てにならない。
ああ、そろそろ反転して逆走を始める頃だろう。もう半ばを超えて大分経つのだから。
絶望にも似た諦念。思わず漏れた溜息にまた溜息を吐いて、その瞬間を見たくないと、いつものように目を瞑った。




