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ローザさんは、真面目だけど手の抜き方を知ってる人だ。要領がいい。それは私もすぐに気づけたし、そうだからこそ提案が通ったわけなんだけど。
あの時の私は、提案を提案としてではなくお願いとして口に出したから、誰かに見咎められたとしてもローザさんが責められる事はない。だって、“私が”お願いしたんだもん。……って、この言い方なんか嫌だな。どっかのワガママ女王様みたい。
とはいえ、贔屓だサボりだとローザさんが裏でこそこそ言われるのは嫌だから、やっぱりこれは二人だけの秘密。
「旦那様に知られたら……恐ろしいですわね」
「えー?ルーグさん優しいし、大丈夫ですよー」
心配しすぎですって!と気楽に笑い飛ばす私に、ローザさんはどうしてか苦く笑った。
「ローザさん、ローザさん。またお話聞かせてください!」
ローザさんとのんびりしてる時、私はいつもローザさんに話をせがむ。それはローザさんが遭遇した面白い事だったり、ヴァルガン領についてだったり、それを飛び越えてお隣の領や国や他国の事だったりと内容はバリエーション豊かだ。
ローザさんは情報通のようでたくさんの事を知ってるし、話もまとまってるから聞きやすい。聞いてるだけで私まで楽しくなる。ローザさんの話術、すごいなぁ。
「そうですね……では、聖パトリシア様の大恋愛の逸話などいかがです?」
「大恋愛!?えっ、パトリシア、恋したの!?」
「ええ、それはもう熱烈な恋だったと言い伝えられております。書物にもなっておりますのよ」
今でも重版のかかる超ロングセラーですと付け加えられて、そんなに人気なんだと余計に興味が煽られた。
だって、すごく意外かも。あんな高飛車な人が恋なんて!みたいな。
恋人さん苦労したんじゃないかなぁ、あんなプライドの塊みたいな人と恋愛なんて。あ、でも恋人さんにはデレたりするのかな?ツンデレってやつ?
ああもうっ、もう気になってしょうがないよ!
聞きたい聞きたいと話をねだれば、ローザさんは落ち着いてくださいと苦笑いして、それでもそわそわする私に口を開く。
苛烈な人だから、きっと本当に熱烈な恋をしたんだろうな。どっちが先に好きになったのかな。
楽しみで仕方ないと、目先の事に囚われて忘れてた。
パトリシアが、私と同じだってことを。




