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もう一度英文を見直してみる。
二度見。三度見。……ダメ元で四度見。
何度見直しても変わらない。これはどう足掻いても“異世界取扱説明書”としか訳せない。
何、聖人なパトリシアさんは実はこの世界の創造主だったりしちゃうの?
呆気に取られる私を他所に、ルーグさんとエリザさんは聖典研究が進むと大はしゃぎだ。読みたくないなんて言えません。
「さつき様、少々お待ちくださいませ!すぐに羊皮紙と角ペンを持って参りますので!!」
「角ペン!?羽ペンじゃなくて!?」
なにそれ太いよ握れない!私のツッコミは届かない。
ガサゴソと置かれていた粗末な机の引き出しを漁って、茶色っぽい巻紙と細長い何かを取り出した。
角って言うから牛とかのを想像してたけど、どうやら違うらしい。象牙のような色ツヤのそれはリップスティックくらいの太さで、もしかしたら男の人には握りやすい太さなのかもしれない。ペン先は万年筆のようになっているけど一本彫みたい。先が割れたら取り替えが効かないと思う。人によってはすぐに割るだろうに、環境に優しくないなぁ。
「お待たせ致しました、さつき様!ささっ、是非お読み聞かせください!」
私がブツクサ考えてるうちに用意を整えたルーグさんがペンを構える。キラキラと子供のように目を輝かせて興奮してる彼の頭と腰あたりには、犬耳と尻尾があるのだろう。そしてそれはピンと立ち、そしてブンブンと千切れんばかりに振られている。そんな幻覚が私には見えた。
「ルーグさん……読んであげたくても、私身動き取れません」
取れないってよりは取りたくないのが正しいんだけど。筋肉痛が酷いんです。自立できないくらい辛いんです。
切々と訴えた私にルーグさんは餌をお預けされたワンコの目をした。
ごめん、そんな顔されても無理なものは無理なんです。




