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「旦那様!」
重そうな扉の左右に立っていた番兵さんたちが、ルーグさんを見た途端にあからさまにほっとした。姿を見せただけで安心させられるルーグさんは、きっと良い主さんなんだろう。……私の前ではアレだけど。
「話は聞きました。中に入ります、扉を開けなさい」
しっかりとした声での指示に、だけど番兵さんたちは躊躇してすぐには動かない。ですが、と途切れさせた言葉。視線の先は、ルーグさんの腕の中の私。
「そちらのお美しいお嬢様は……」
…………なにも言いません。ええ、言いませんとも。わかってますよ、価値観の違いなんでしょう?わかってますとも!
たとえなんの変哲も取り柄もない平々凡々な私でも、彼らが彼らの価値観で私を美しいと言うのなら私のは甘んじてそれを…………受け入れられるか!恥ずかしいわ!
価値観とはその違いを認識していても修正が効かないものなのだと学びました。
私が悶々としてる間にも冷静なルーグさんは簡潔に事を為す。
「こちらは聖域から舞い降りて来た天女、さつき様です。聖人 所縁の物に異変という事でご足労をお願いしました。
さあ、扉を開けなさい」
時間が惜しいとぴしゃりと命じた彼に、番兵さんたちは慌てて錠前を落として扉を開ける。
古いのか、それとも頻繁に開けられる事がないのか。見た目通りの重々しい音を立てて分厚い扉がゆっくり開いていく。
人一人余裕で通れる程のスペースが開いて、開き切るのを待っていられないとルーグさんが足早に扉を潜った。メイドさんも、それに続いて入ってきた。




