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異世界で恋に落ちました  作者: 藤野
第十七話
133/134

2

 「グランは、さ……。怖くなったりしないの……?」


 尋ねる声は、自分でも情けなくなるほど弱々しかった。だからだろう、グランが鼻で嗤う。


 「怖がったところで何になる」


 ばかばかしい。そう吐き捨てるグランの声は、どこか寂しそうだった。


 「レオハルトに生まれた、そう理解した時から私の在り方は決まっていた」


 聖女の血筋、その流れを汲んだ公爵家・侯爵家はすでに滅んでいる。貴族としての階級が高いわけでもない伯爵家さえ、現存するのはカルヴァンとレオハルトの二家のみ。

 だからこそ、二の舞を演じることのないように、誰よりも堅実であることを求められた。

 過去にばかり囚われるのではなく、今ある己が領地の民草を守れ、希少な血筋を守れ、と。


 「怖いと思うのは、お前がルーグに守られていたからだ。悪意にも害意にも晒されないように、あいつが囲っていたのだろう」


 言われて、初めて気がついた。

 ルーグさんの屋敷にいた頃、私が会う人は限定されていた。

 ルーグさん、エリザさん、ローザさん。

 その他の人に会う事もあったけれど、あまり多くはなかった。そして、皆私に好意的な人達だった。

 私に何かを求めたりしなかった。

 天女と崇めている存在に、何故とどうして思わなかったのだろう。


 「……なんで、ルーグさんは…………」

 「あの男は、お前を助け出すためだけに軍さえ動かした。それ以上の答えがあるのか」


 愚問とばかりに言い切ったグランに、そうだよねと目線が下がる。

 守られてばかり、助けられてばかり。なら、私はどうしたらいい?

 怖がってばかりでは前に進めない、そうわかっていても、どうしていいのかちっとも頭に浮かばない。


 「ねえ、私はどうしたらいいの?」


 こんなこと聞くのは卑怯だってわかってる。答えも、予想してた通り「自分で考えろ」だって。

 私がグランに攫われたのも、グランに捧げられそうになっているのも、根幹部分はきっと同じなのだろう。


 「自由には責任が伴う。対価もなしに何をも手に入れられると思うな」

 「…………うん。ありがと」


 なんだかんだ言って、グランは優しい。癪だから、本人には絶対言ってやらないけど。

 私が差し出せる対価なんて限られている。考えるまでもないほどに。

 残された時間は少ない。時間が止まれと思う一方で、早く来いとも思ってる。

 もう形振りなんて構っていられないから。今度は私が、ルーグさんを守る。

 唇を引き結んで顔を上げると、グランがにやりと上機嫌に笑った。


 「それでいい」


 グラス越しにかち合った目には、喜びとも慈しみとも取れない不思議な色が浮かんでいた。

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