第1話
グランの助力は、助力というには過ぎるほどの成果を出した。
1日目には決行日や賛同人数の裏を取り、2日目にはどの程度の軍備を整えているのかを調べ上げた。それからも、グランが手配した隠密達は次々に情報が集めていった。
テロが確定と判明すると、グランは即座に投入人員を増やした。
バルトさんの店では、毎晩報告会議が開かれ、情報の漏洩や誤報を防ぐため、グランも毎日それに参加していた。
1日1日が、あっという間に過ぎ去っていく。
そんなある日の夜のことだ。
「…………あいつに、つなぎを取らないのか」
人目を偲ぶようにグランが聞いた。あいつ、というのが誰なのかはわかっている。グランに、そうしてもらうのが一番楽だということも。
わかっているけど、私は首を横に振った。
「何故?」
「……わかってるくせに」
じろりと睨むと、グランは愉快そうにくつくつ喉を鳴らす。やっぱりだ。
楽だというのが、必ずしも良いことだとは限らない。特に今回のような場合は。
私には理解できないけれど、大義名分を掲げているテロ集団がいることは間違いない。伝えればルーグさんが即座に動いてくれることも。
けれど、もし今回のことが不発に終われば、次はいつになるかわからない。だからこそ直前に未遂で防いで、後顧の憂いを絶つべきだ。
だというのに、この男はこうしてひどく甘い餌を吊るす。底意地の悪いことこの上ない。
グランはついと、話し合う人集りへ目を動かした。
彼らが囲んでいるのは領主だけが持つ領内の詳細地図だ。テーブルを四つ集めても尚はみ出るほどのそれには、大通りはもちろん小路地まで緻密に書き込まれている。
守秘義務という都合上どこにどれだけの人員が配置されるかは聞いていないが、だからこそ街の人たちはあれこれと考えを廻らせた。そこに暮らす者だからこそ知る情報は馬鹿にできない。
警備に携わるのだろう人達は真剣に耳を傾け、対策を立てていく。相乗効果とは、こういうことを言うのかもしれない。
「覚悟は決まったのか」
「………………まだ」
グランが鼻を鳴らした。
わかってる。タイムリミットは明確で、もう明後日にまで迫ってきている。
私とグランが知り合いだと知られてから、バルトさんに畏まって敬語まで使われた。その時リディアさんが引っ叩いたから、今もみんな普通に接してくれるけど、戸惑っているのを感じていた。
それに、バレるっていうことは、別れるっていうことだ。
ルーグさんが、今も私を好きでいてくれてるかはわからない。でも、好きじゃなくなっていたとしても天女という立場上、保護しないわけにはいかない。
逃げ場がないこの状況は、なかなかキツいものがある。
「少しは賢くなったようだが、まだまだだな」
グランの呟きに、私は何も言えなかった。




