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「…………なるほど」
「ぇ」
にいっとグランの口角が上がる。とん、とグランの指がテーブルを叩く。シエラが私に寄り添って、物影やカウンターの影からぞろぞろと人が出てきた。
「えっ、えっ?」
わけがわからずオロオロしている間にも、隠れていたらしい人たちはずらりとグランの背後に整列していく。
「ちょっ、あんた何連れてきたの!?」
「当家の隠密だ。二十人いる。これだけいれば、調査には事足りるだろう」
「はあっ!?」
何言ってんのこいつ!
喚くべきか一発喰らわせるべきかと固く握った拳を、シエラの華奢な手が優しく包む。それから「合格だそうですよ」と耳打ちされて、私はぽかんと口を開けた。
本当に? と疑う私にグランが嫌そうな声で言った。
「言っておくが、不利益と断じれば即座に手を引く。それを忘れるなよ」
「…………上等!」
不利益になんて、させないんだから!
掴んだステップに確かな手応えを感じていると、今にも倒れそうなルトヴィアスさんが震えた声で私を呼んだ。
「さ、サツキ……お前、伯爵様になんてことを……!」
わなわなと唇を震えさせるルトヴィアスさんに、シエラが「肝っ玉の小さい男ね」と小さく毒を吐いた。言わないであげて。
さて、ルトヴィアスさんにはどう答えたものか。ちらりと他の人たちの様子も盗み見ると、みんな同じような反応をしている。
無言でシエラを伺い見ると、お任せくださいと素敵な笑顔を頂いた。
「こちらのサツキ様は、一見すればわかりませんが国王陛下とご縁のある方なのです。以前伯爵邸に滞在された時に打ち解けられたのですよ」
にっこり、と効果音がつきそうなほどの笑顔と説明。淀みなく言い連ねたそれは確かに間違いではないけど、いろいろと語弊があった。だってこんなやつと打ち解けてないし!
ぐっと不自然に息を詰めた私を牽制するようにシエラが視線をよこした。わかってますよ、拗れないように黙ってますよ。
自警団の視線が右往左往と忙しなく動く。私が何も言わず、グランも否定しないことから、それが本当のことだと判断されたらしい。絶句した一同を一瞥して、グランはワインを一口飲んだ。
「所詮一時しのぎに過ぎん。覚悟は決めておけ」
「…………わかってる」
何の、なんて言われるまでもない。この土地に根付いた迷信はちゃんと覚えてる。
関係あるようでない、曖昧な今の私の立場。
もしそれも使い道があるのなら、私は今度こそ迷わない。
叶うなら、もう一度あの人に会いたい。会って、話がしたい。
そのためにも、私はこのテロを絶対に止めてみせると決めた。




