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………………の、だけれども。
「なんっでここにいるの!?」
「喧しい」
「さ、サツキ! 落ち着こう、冷静になるんだ!」
私が怒鳴りつけると、その相手ではなくルトヴィアスさんが顔を青くした。いや、他のメンバーも青ざめて冷や汗をかいている。
その中でヒートアップする私と、相変わらずですわねと猫のように目を細めたシエラと、素知らぬ顔で優雅にワイングラスを傾けているグラン。
おかしいでしょ!おかしいよねっ? これ、私の反応が正しいよね!?
「お手紙を頂いた時はまさかと思いましたけれど、お元気そうでなによりですわ」
お久しぶりです、と微笑を浮かべて話しかけてくれるシエラに、私は堪らず抱きついた。「きゃっ」と小さな悲鳴が上がって、よろめいたシエラをルトヴィアスさんが支えた。
「それで? わざわざ呼び出した理由は?」
くるりとワインを躍らせながら、グランが流し目で私を見る。ちくしょう、様になってるから文句も言えない。
シエラから離れてグランの前に立っても、グランは私に見向きもしないでくるくると揺らめくワインを見つめている。
「式典の日を狙って、テロを起こそうとしてる集団がいる」
「テロ?」
「暴動」
ぱちりと瞬きしたグラン。小首傾げても可愛くはない。
端的に言い直せば、ほう…と地を這うような低い声でグランが唸った。ぎろりと獲物を見つけた獣の目。わかりやすい怒りに、周囲の人が一層顔から血の気を引かせた。
助力を願う立場で言うのもどうかと思うけど、自分がめちゃくちゃ強面だって自覚しようよ。
さすがに物申すべきかと私が口を開きかけると、それよりも早くグランが鼻を鳴らして威圧感を霧散させた。
「式典が狙われやすいのは百も承知、当然警備も強化される。起こそうとしたとて、間も無く鎮圧されるだろう」
「企んでるのはレオハルト領の人間なんだけど。それとも、自分の領民を切り捨てるの?」
ぴくりとグランの眉が僅かに寄った。
そもそも、レオハルト領で暴動が起きるということ自体が、グランにとっては不都合なはずだ。グランが領民を大切に思えば思うほど。
でも、決定打にはまだ足りていない。私を凝視するグランの目は、前にも向けられたことのある目。私を見極めようとする目だ。
ばくばくと暴れる心臓の音を聞きながら、ゆっくりと息を吐く。ここで焦ってはいけない。
テロの話はあくまで予定であって確定ではない。だからこそ、グランは明言しない。何もなかった時の代償が大きいから。
「狙いは国王、なら起きなくとも少なくとも私には恩を売れる。違う?」
「………………」
沈黙の後、ことりとグラスがテーブルに置かれる。誰かがごくりと唾を飲んだ。




