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「いらっしゃいませー!」
「よぉ、サツキちゃん。いつもの頼むよ!」
「はいっ、すぐにお持ちしますね!」
手紙を出した翌日。私は今日も今日とて元気にアルバイトに勤しんでいた。
意識して見てみると、坑夫を装った異質な人がいる。見た目は確かにそうとしか見えないんだけど、顔なじみの人と比べるとやっぱり何かが違うんだよね。
「お待たせしました、雉肉のパイ包み焼きです。お客さん達も新しくいらした坑夫さんですか?」
「ん? ああ、そうだが……それが?」
五人組のひとり、ガタイのいい髭もじゃ男が怪訝そうに見てくる。こういう反応も予想済みだ。少し顔を逸らして耳に着けたイヤリングを見せつける。
「以前に坑夫さんから頂いたんですけど、何て石かわからなくて。ご存知ないですか?」
ちょっと困り顔で甘えるような声を意識して聞く。私にとっては鳥肌モノでも、こちらの謎な美的感覚のおかげで美少女認識されているのだ。利用しない手はない。駄目押しに上目遣いもしてやれば、私の目論見通り、屈強な男たちの顔はだらしなく脂下がった。
「俺は見たことねぇな……」
「俺もだ。だが良い石だろうさ。嬢ちゃんに見劣りしてねぇし」
「そうですか……綺麗で気に入ってるから、ペンダントとかも欲しいなぁって」
「そんなら、今度仲間に声かけてみてやるよ」
残念、と肩を落とした私を励ますように声がかけられる。連れのひとりがぎょっとして言い出した人を止めようとしたが、それよりも早く私が「本当ですか!?」と目を輝かせると絆されたらしく何も言わなくなった。
「じゃあ、今度お仲間さんといらしてくださいね!サービスしちゃいますからっ」
「おっ、言ったな?」
頰に大きな傷のある男がにやりと笑う。にっこりと満面の笑みを浮かべてやると、ゲラゲラと大きな声で笑った。
よろしくお願いしますね、と念を押してからカウンターに戻ると、アネッサさんが不思議そうに私と五人組とを見比べていた。
「何かあったのかい?」
「この石について聞いたら、今度お仲間さんにきいてみてくれるって。なのでついでに客引きしてみたら笑われちゃいました」
えへへ、といたずらっぽく笑うと、アネッサさんも納得して笑う。それから、くしゃりと手を押し付けるように頭を撫でられた。
「あんたも大分慣れてきたね」
「アネッサさんのおかげですよ」
「っ、言うようになったじゃないか」
私は正直に言ったつもりなのに、アネッサさんは少し悔しそうだ。なんで?
何か気に触ることを言ったのかと振り返ってみても心当たる節はない。きゅうっ、と眉根を寄せた私に喝を入れるように、アネッサさんが背を叩いた。
「さあ、じゃんっじゃん注文とってきておくれよ!」
なんなら何か貢がせちまいな!と明け透けに言うアネッサさんに苦く笑ってまたホールに戻る。騙してるつもりはないんだけど、悪いことしてる気分になったのは、多分気のせいだと思いたい。




