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「豪勢にって言っても、何食べに行くんですか?」
聞いてみると、ルトヴィアスさんはふふんと自慢げに口角を吊り上げた。高級食材だぞ」と勿体振る言い方に、むくむくと期待が高まる。
「蟹とか魚介ですか?」
「ハズレだ」
「んーと…………お肉?」
「何のだよ。まあ、ハズレ」
ご馳走、ご馳走……魚介でもお肉でもないなら、他にどんなのがあったっけ? いや、そもそもこの世界特有の何かという可能性も捨てきれない。
むむむと考え込む私に、ルトヴィアスさんはタイムオーバーだと宣言した。
「正解は…………目玉もどきだ!」
あっ、あいつかぁあああ!!
かっくんと顎が外れそうなくらい大きく口を開けた私に、ルトヴィアスさんは大成功とばかりに満足そうに笑む。
「美容にも良いから、女性受けもいいんだ。サツキは食べたことはあるか?」
ええ、ええ、ありますとも。名前の通りのあの見た目、忘れようったって忘れられませんよ。
「…………チョコレート、なら」
「あれはチョコともよく合うよなぁ」
目をそらしつつ答えた私とは裏腹に、ルトヴィアスさんは甘い物の話だからか幸せそうだ。
ココアが原因で別れたんだもんね、そりゃチョコレートだって好物だよね。
思わず遠い目をしてしまう私のとなりで、ルトヴィアスさんはチョコレートと目玉もどきのマリアージュがどうとかなんとか、とにかく甘い物がいかに素晴らしい物かを熱く語っている。
それをなんとも言えない気持ちで聞きながら通りを歩いていると、不意に裏路地の方から人の声が聞こえてきた。
「…………ら、決行は……」
決行?
思わず足を止めると、ルトヴィアスさんも裏路地からの声に気がついたらしい。慎重に足音を忍ばせて距離を詰めた。
「しかし、本当にやるのか? もし失敗したら……」
「いまさら何言ってんだ!もう、やるっきゃねえだろうが!」
「お前達!……誰かに聞かれたらどうするつもりだ」
不穏な気配。どうするのかとルトヴィアスさんの様子を伺うと、もう少しとアイコンタクトがきた。
男たちはまだぼそぼそと話し合いを続けている。
「武器は集めた。人も十分。あとは、決行するだけだ」
「そう……だな。そうだよな」
「決行は十日後。レオハルト領のため、我らが伯爵様の御為に----天女を献上する」
ひゅっと、息を飲む音がした。きっと、私だけじゃない。ルトヴィアスさんも一緒だ。
ばくばくと心臓がとにかくうるさい。みっともないくらいに体が震えている。
「…………サツキ」
離れるぞ、とルトヴィアスさんが手を引く。そうだ、逃げなければ。見つかる前に。
うまく力の入らない足を叱咤して必死に動かす。
男たちの声が聞こえなくなっても、それは治ることはなかった。




