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異世界で恋に落ちました  作者: 藤野
第十六話
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2

 「豪勢にって言っても、何食べに行くんですか?」


 聞いてみると、ルトヴィアスさんはふふんと自慢げに口角を吊り上げた。高級食材だぞ」と勿体振る言い方に、むくむくと期待が高まる。


 「蟹とか魚介ですか?」

 「ハズレだ」

 「んーと…………お肉?」

 「何のだよ。まあ、ハズレ」


 ご馳走、ご馳走……魚介でもお肉でもないなら、他にどんなのがあったっけ?  いや、そもそもこの世界特有の何かという可能性も捨てきれない。

 むむむと考え込む私に、ルトヴィアスさんはタイムオーバーだと宣言した。


 「正解は…………目玉もどきだ!」


 あっ、あいつかぁあああ!!

 かっくんと顎が外れそうなくらい大きく口を開けた私に、ルトヴィアスさんは大成功とばかりに満足そうに笑む。


 「美容にも良いから、女性受けもいいんだ。サツキは食べたことはあるか?」


 ええ、ええ、ありますとも。名前の通りのあの見た目、忘れようったって忘れられませんよ。


 「…………チョコレート、なら」

 「あれはチョコともよく合うよなぁ」


 目をそらしつつ答えた私とは裏腹に、ルトヴィアスさんは甘い物の話だからか幸せそうだ。

 ココアが原因で別れたんだもんね、そりゃチョコレートだって好物だよね。

 思わず遠い目をしてしまう私のとなりで、ルトヴィアスさんはチョコレートと目玉もどきのマリアージュがどうとかなんとか、とにかく甘い物がいかに素晴らしい物かを熱く語っている。

 それをなんとも言えない気持ちで聞きながら通りを歩いていると、不意に裏路地の方から人の声が聞こえてきた。


 「…………ら、決行は……」


 決行?

 思わず足を止めると、ルトヴィアスさんも裏路地からの声に気がついたらしい。慎重に足音を忍ばせて距離を詰めた。


 「しかし、本当にやるのか?  もし失敗したら……」

 「いまさら何言ってんだ!もう、やるっきゃねえだろうが!」

 「お前達!……誰かに聞かれたらどうするつもりだ」


 不穏な気配。どうするのかとルトヴィアスさんの様子を伺うと、もう少しとアイコンタクトがきた。

 男たちはまだぼそぼそと話し合いを続けている。


 「武器は集めた。人も十分。あとは、決行するだけだ」

 「そう……だな。そうだよな」

 「決行は十日後。レオハルト領のため、我らが伯爵様の御為に----天女を献上する」


 ひゅっと、息を飲む音がした。きっと、私だけじゃない。ルトヴィアスさんも一緒だ。

 ばくばくと心臓がとにかくうるさい。みっともないくらいに体が震えている。


 「…………サツキ」


 離れるぞ、とルトヴィアスさんが手を引く。そうだ、逃げなければ。見つかる前に。

 うまく力の入らない足を叱咤して必死に動かす。

 男たちの声が聞こえなくなっても、それは治ることはなかった。

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