第1話
「あれ、ルトヴィアスさん?」
「やあサツキ、お疲れ様」
今日の仕事が終わって店を出ると、何故かルトヴィアスさんがいた。どうしたのかと聞いてみると、用事のついでに迎えに来てくれたらしい。
「それに、たまには外食も良いと思ってな」
この辺りは美味い店が多いんだ、と笑顔のルトヴィアスさんに、そういえば外食はしたことがないと気がついた。
だって、前はルーグさんのお屋敷から出なかったし。グランのお屋敷は外に出して貰えなかったし。今だって、お店と家の往復くらいしかしてないし。………………あれ、私ってもしかして引きこもり? いやいやそんな馬鹿な。
嫌なことに気づいてしまったが、ルトヴィアスさんは「何がいい?」と聞いてくれたので考えるのは後回しにした。
しかし、何がいいかと聞かれてもこれという答えは見当たらない。というか、そもそもどこにどんなお店があるのかすら知らないのだから答えようがないよね。
「ルトヴィアスさんのオススメがいいです」
未知との出会いも大切だとお任せを宣言すると、ルトヴィアスさんはおやと一瞬目を丸くして、それから困ったように苦笑した。
「まったく、サツキはとんだ小悪魔だな」
「はい?」
この人、何言ってるの?
さっぱりわけのわからないセリフに首を傾げても、ルトヴィアスさんは黙って苦笑いするだけだ。
昨日といい今日といい、はぐらかしすぎじゃない?
納得いかない、と眉間にしわを寄せると、太い指が眉間をぐっと押さえてきた。
「そんな顔するな、皺になるぞ」
「あー、そういうことレディに言っちゃダメなんですよー」
「レディ、なぁ……」
ルトヴィアスさんが意味深に繰り返す。
はいはい、わかってますよー。どうせ私なんてまだまだ子供ですもんねー。すみませんねー。
つんと顔を背けた私に、ルトヴィアスさんがくすりと笑う。
「見た目は文句無しなんだがなぁ……」
ルトヴィアスさんの言葉に、フォローするならちゃんとしてくれと思った私は悪くない。………………はすだ。
「なら、ご機嫌取りも兼ねて豪勢にいくか」
「普通、本人に向かって言います?」
「いいじゃないか。俺だってたまには良いモン食いたいしな」
にやりと笑って、大きな手で私の手を引く。言うまでもない、エスコートだ。
まるでルーグさんのように卒なくリードする姿に気負いはなくて、これがこの世界の男性の必須スキルなのかと本気で悩みたくなる。ただでさえイケメン揃いなのに、レベル高すぎでしょ。
そんな私の内心なんて当然知るはずもなく、私はただルトヴィアスさんに手を引かれるまま、どこかのお店へと向かった。




