第1話
「サツキちゃーん!おかわりー!」
「はーい、ただいまー!」
ルトヴィアスさんのお知り合いのお店は、私が予想していたよりもずっと繁盛していた。大衆食堂らしいけど、それにしてはやけに手の込んだ料理を提供している。何故かと思ったら、部屋数は少ないけど宿屋も兼ねているらしい。
両手にビアジョッキを幾つか持って、彼方此方でおかわりと叫ぶ人たちに運んでいくと、アルコールで真っ赤になった顔でお礼を言われる。それに私も笑顔で返して、配膳待ちの料理を取りに足を動かした。
人生初のアルバイトは、概ね順調だと思う。あくまで私の認識だから実際のところはどうかわからないけど、働き心地は悪くない。
「サツキちゃん、あと少ししたら休憩入っていいよ」
「あ、はい!ありがとうございます!……ちなみに、今日は…………」
「ポトフ!」
「やった!ありがとうございます!」
思わずガッツポーズまでしてしまうとアネットさんが大声で笑った。それを恥ずかしいと思わないことはないが、ここのポトフは本当に美味しいのだから仕方がない。美味しいは正義なのである。
さて、先ほどまでのやり取りはわかりやすいと思うけど賄いについて。接客業とは名ばかりになかなか肉体労働なこの仕事では、休憩時に賄いが出る。お店の残り物で作られることが多いのだけれど、どれもこれもメニューとして出しても問題ないクオリティーなのだ。
ポトフへの期待を胸にまた店内を駆け回っていると、宿屋の方のお客さんがお土産だといって小さな布包をくれた。開けてみると、中から何色とも言い難い色をした綺麗な石が二つ。
「洞窟掘ってたら出てきてね。好きに加工して使っとくれよ」
「いいんですか? ありがとうございます!」
「いいってことよ!あ、その代わり明日の朝飯をちょいと多めにしてくれたりは……」
「……アネットさん次第ですねー」
うーん、と悩ましげな顔で返すと、おじさんが「だよなぁ!」と大笑い。それにつられてか話を聞いていなかっただろう周囲のお客さんも大笑いして、あまりの大きさに耳がぼんやりした。
石をくれたおじさんは、なんでも一攫千金を夢見るさすらいの鉱夫らしい。本当はトレジャーハンターになりたかったらしいが、自分にはそこまでの能力はないからと鉱山発掘を目指しているのだとか。
その話を聞いた時は大人としてどうなんだろうと思ったけれど、地球では非現実的とか言われるような仕事も、こちらの世界では当たり前のように普及している。ゲームのようにパーティーを組んで冒険に乗り出すということも珍しくないそうだ。
お屋敷の中では聞かなかった情報が、ここには溢れている。知らないこともそれだけ溢れているけれど、悪くない現状なんじゃないかな、と思った。




