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異世界で恋に落ちました  作者: 藤野
第十四話
118/134

7

 「えっ!?仕事!?君がかい!?」


 とりあえず頭に浮かんだ打開策をルトヴィアスさんに伝えたら、信じられないと目を剥かれた。なんでそんなに驚くんだろう?ちょっとよくわからない。


 「飲食店でウエイトレスとか………ダメですかね?」

 「いや、ダメとかそういう問題ではなくてね……」


 言いごもるルトヴィアスさんは心なしか冷や汗をかいていて、ちょっと青ざめている。具合が悪いとかではなく、心配だと切々と訴える目で私を見ていた。


 「どうして、急に?誤解のないように言っておくが、資金繰りに困ってるなんてことはない。君一人養うのに何の問題もないんだ」

 「………そう言うのは、私が世間知らずだからですか?」


 彼にしてみたら世間知らずもいいとこの私には、「働く」ということは厳しいことだと思っているのかもしれない。

 確かに、私はこちらの「常識」をほとんど知らない。お屋敷にいた頃も齟齬(そご)に驚かされることは度々あったし、今だってそれは変わらない。

 自覚しているからこそ気安く否定できないけど、ずっとこのままでなんていられない。


 「どうしても会いたい人がいるんです」

 「前にも聞いた。だが、それとこれとは話が別だ」

 「いいえ」


 別なんかじゃない。

 ルトヴィアスさんがひゅっと息を飲んだ。彼を見る私の目はきっと据わっているんだろう。

 でも、ここで緩めるなんてことはできなかった。


 「これまでずっと、甘やかされてばかりだった。『外』のことを知らないことすら知らなかった。そんな私が働きたいなんて、難しいことはわかってます」


 ぐっと握る拳に力がこもる。こんなことで泣いてる暇なんてないのに目頭が熱かった。

 見つめていると、ルトヴィアスが大きく溜息を吐いた。がりがりと荒く頭を掻きむしって、呻き声を上げている。


 「働くことに苦労は付き物だ。君の場合、それは人並み以上になるだろう。それでも?」


 即座に頷くと、彼はまた大きく溜息を吐いた。顔がテーブルに付きそうなくらい体を折り曲げて、でも跳ね上げられた時にはどこかすっきりとした表情をしていた。


 「友人に飯屋を営んでいる奴がいる、打診してみよう。……俺の面目を潰さないでくれよ?」

 「っ!はい!」


 ありがとうございますと叫ぶようにいうと、敵わないね、とルトヴィアスさんが苦笑いした。きょとんとしていると、大きな手がくしゃくしゃと私の髪をかき混ぜてくる。


 「そこまで想われる奴は、本当に幸せ者だな」


 ぽつりと呟かれた言葉に、じんと胸の奥が熱くなった。

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