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「えっ!?仕事!?君がかい!?」
とりあえず頭に浮かんだ打開策をルトヴィアスさんに伝えたら、信じられないと目を剥かれた。なんでそんなに驚くんだろう?ちょっとよくわからない。
「飲食店でウエイトレスとか………ダメですかね?」
「いや、ダメとかそういう問題ではなくてね……」
言いごもるルトヴィアスさんは心なしか冷や汗をかいていて、ちょっと青ざめている。具合が悪いとかではなく、心配だと切々と訴える目で私を見ていた。
「どうして、急に?誤解のないように言っておくが、資金繰りに困ってるなんてことはない。君一人養うのに何の問題もないんだ」
「………そう言うのは、私が世間知らずだからですか?」
彼にしてみたら世間知らずもいいとこの私には、「働く」ということは厳しいことだと思っているのかもしれない。
確かに、私はこちらの「常識」をほとんど知らない。お屋敷にいた頃も齟齬に驚かされることは度々あったし、今だってそれは変わらない。
自覚しているからこそ気安く否定できないけど、ずっとこのままでなんていられない。
「どうしても会いたい人がいるんです」
「前にも聞いた。だが、それとこれとは話が別だ」
「いいえ」
別なんかじゃない。
ルトヴィアスさんがひゅっと息を飲んだ。彼を見る私の目はきっと据わっているんだろう。
でも、ここで緩めるなんてことはできなかった。
「これまでずっと、甘やかされてばかりだった。『外』のことを知らないことすら知らなかった。そんな私が働きたいなんて、難しいことはわかってます」
ぐっと握る拳に力がこもる。こんなことで泣いてる暇なんてないのに目頭が熱かった。
見つめていると、ルトヴィアスが大きく溜息を吐いた。がりがりと荒く頭を掻きむしって、呻き声を上げている。
「働くことに苦労は付き物だ。君の場合、それは人並み以上になるだろう。それでも?」
即座に頷くと、彼はまた大きく溜息を吐いた。顔がテーブルに付きそうなくらい体を折り曲げて、でも跳ね上げられた時にはどこかすっきりとした表情をしていた。
「友人に飯屋を営んでいる奴がいる、打診してみよう。……俺の面目を潰さないでくれよ?」
「っ!はい!」
ありがとうございますと叫ぶようにいうと、敵わないね、とルトヴィアスさんが苦笑いした。きょとんとしていると、大きな手がくしゃくしゃと私の髪をかき混ぜてくる。
「そこまで想われる奴は、本当に幸せ者だな」
ぽつりと呟かれた言葉に、じんと胸の奥が熱くなった。




