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異世界で恋に落ちました  作者: 藤野
第十四話
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6

 それから、いつの間に準備したのかお風呂を先に頂いた。ルトヴィアスさんの方が疲れてるから、と遠慮したのだけど、「男の後に入るのは嫌だろう」と紳士然として言われて、言い募るのは無理だった。

 この世界の男の人は、必要以上にレディーファーストしてる気がする。亭主関白な日本育ちだから思うのかもだけど、ありがたいと思う反面くすぐったい。

 あと、罪悪感。だって私、本当に何にもできない。ガスも電気もないこの世界では、ご飯もお風呂も、私にはやり方がわからない。

 ルーグさんのところでも、グランのところでも、私は周りになんでもかんでもしてもらうばっかりで、自分から何かをしようとしたことはなかった。知ろうともしなかった。

 それが普通だって、きっと心のどこかで思ってたんだ。


 ---天女であるからこそ、見初められた。


 グランの言葉が、今更また傷口を抉る。

 あの時は、まだ否定できた。

 でも、今は。


 「否定なんて、できるわけない……」


 何も知らない、何もできない。お金も、自分の財産になるものなんてない。

 あるのは、“天女”という名ばかりの肩書きだけ。

 役立たずもいいところじゃん。

 ぎり、と奥歯が軋む。

 悔しい。むかつく。こんな自分、嫌い。

 私にはパトリシアみたいな知識も教養もない。あるのはこの身ひとつだけ。使えるものも、私自身だけ。

 じゃあ、こんな私にもできることってなんだろう。


 「一ヶ月……」


 羽借を使うには、一ヶ月分の生活費はかかるって言ってた。

 今のままの私じゃ、ルーグさんには会えない。会いに行っても、合わせる顔なんてない。

 考えないといけない。見つけないと。

 “森山さつき”として。“天女”として。

 ---ルーグさんの隣に立つ人間として。

 私にできること、私の存在意義を。

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