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それから、いつの間に準備したのかお風呂を先に頂いた。ルトヴィアスさんの方が疲れてるから、と遠慮したのだけど、「男の後に入るのは嫌だろう」と紳士然として言われて、言い募るのは無理だった。
この世界の男の人は、必要以上にレディーファーストしてる気がする。亭主関白な日本育ちだから思うのかもだけど、ありがたいと思う反面くすぐったい。
あと、罪悪感。だって私、本当に何にもできない。ガスも電気もないこの世界では、ご飯もお風呂も、私にはやり方がわからない。
ルーグさんのところでも、グランのところでも、私は周りになんでもかんでもしてもらうばっかりで、自分から何かをしようとしたことはなかった。知ろうともしなかった。
それが普通だって、きっと心のどこかで思ってたんだ。
---天女であるからこそ、見初められた。
グランの言葉が、今更また傷口を抉る。
あの時は、まだ否定できた。
でも、今は。
「否定なんて、できるわけない……」
何も知らない、何もできない。お金も、自分の財産になるものなんてない。
あるのは、“天女”という名ばかりの肩書きだけ。
役立たずもいいところじゃん。
ぎり、と奥歯が軋む。
悔しい。むかつく。こんな自分、嫌い。
私にはパトリシアみたいな知識も教養もない。あるのはこの身ひとつだけ。使えるものも、私自身だけ。
じゃあ、こんな私にもできることってなんだろう。
「一ヶ月……」
羽借を使うには、一ヶ月分の生活費はかかるって言ってた。
今のままの私じゃ、ルーグさんには会えない。会いに行っても、合わせる顔なんてない。
考えないといけない。見つけないと。
“森山さつき”として。“天女”として。
---ルーグさんの隣に立つ人間として。
私にできること、私の存在意義を。




