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ルーグさんといいこの人といい、この世界の人たちってどうしてこうも他人を口説くような思わせぶりなことを平気で言えるんだろう。日本人な私には理解できません。月が綺麗、くらいでちょうどいいです。
ルトヴィアスさんの笑顔の催促に負けて、すごすごとさっき案内された部屋に引っ込む。
投げ出すようにベッドに倒れこむと軋む音がした。体が跳ね上がって、二三回してようやく沈み込む。
見上げた天井も、やっぱりきれいなものだった。まめに手入れしていたことがわかる。ちょっと心苦しい。
本当は、なんでもいいから何か役目を与えてほしかった。手伝いたいなんて嘘っぱちだ。そうしないと、考え込んでしまうから。
私は、我ながら呆れてしまうほど欲深な人間だ。せっかくこっちに帰ってこれたのに、全然満足できない。同じ世界にいる、またいつか会えるってわかったら、今度は会いたくて堪らなくて。どんどんと我慢がきかなくなっていく。
こんな私、嫌われちゃうよね。
寝返りを打った先には、窓枠に区切られたサンセットがあった。まわりに何にもないからか太陽の大きさがすごい。
……………あれ?
ベッドから起き上がり、窓枠に手をついて身を乗り出す。
どこか、どこかで見覚えがある。光景じゃない。色。ちょっとオレンジがかった赤。
この色は-----!!
「ルトヴィアスさん!ルトヴィアスさーん!!」
扉を蹴破るように飛び出して彼を探す。
飛び込んできた私に、ルトヴィアスさんはびっくりしてボウルを抱えたまま固まっていた。
「どうしたんだ、そんなに慌てて」
虫でも出たかい?と聞かれた。それはそれで騒ぐだろうけど、そうじゃない。今はそんなことどうでもいい。
「ルトヴィアスさん、空!空飛んで行けないの!?」
パトリシアの時代にあった移動手段。車も電車もないこの世界だ、まだ使われている可能性は十分ある。その狙いは外れてなかったようで、ああ、とルトヴィアスさんは心当たりのあるような反応をした。
「街まで行けば羽借もいるが……さつき、君は騎獣ができるのかい?」
「はねかし?きじゅう?…よくわかんないですけど、とにかく空路あるんですね!?」
「ああ、あるよ」
しかも空ならもっと早くカルヴァン領まで行けると教えられて、私の気力は一気にわいた。目を輝かせた私に、用語の説明が入る。
羽借は、昔でいう馬借みたいなもの。つまりは運送屋。でも小金稼ぎとしてレンタカーみたいに貸したりもしてるらしい。
騎獣は、その字のとおり動物に乗ること。特に羽借で用いられるような翼のある動物に乗ることを指す。でも大抵の人は馬を利用できれば事足りるそうで、できる人はそう多くないらしい。レンタルが小金稼ぎにしかならないのはこれが原因のようだ。
そして、私の最難関にもなった。だって私、馬すら乗れませんが?お金だって持ってませんが?
…………先は、まだまだ、長そうだ。




