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この人だったら大丈夫だと私は確信した。間違いの起きようがない。
すかさずお願いしますと丁寧に頭を下げると、ルトヴィアスさんは少し驚いたけどにっこり人好きのする笑みで受け入れてくれた。
「じゃあ、こっち。狭い家だけど、案内しておくよ」
そういって、いくつかの部屋を回った。借りる寝室と、あとはお風呂とかの生活に必要なところ。
ルトヴィアスさんは「狭い」なんて謙遜言ったけど、全然そんなことはなかった。一人暮らしでこの広さは寂しい。
着替えとかは、申し訳ないけれど元恋人さんの物を借りることになった。ウエストだとかはぎりぎりなのに胸はブカブカ……メンタル直撃ですよ、ええ。
一応言っておくと、私は決してデ…太めっていうわけではない。前こっちにいた時はちょっとぽっちゃりだったかもしれないけど、戻ってからは頑張って運動に勤しんだから。成果だってちゃんと出たから、決して決して太ってるなんて事実はない。ないったらない。
案内されてて、ふと疑問に思うことがあった。というのも、元恋人さんの部屋がめちゃくちゃ綺麗だったんだよね。埃積もってないし、空気もきれい。掃除の手間が省けたのは嬉しかったけど、ちょっと複雑。
まだ早いのにもう外には出ないらしいから、ルトヴィアスさんに地理を教えてもらうことになった。口頭で教えてはもらったけど、そもそも私はこの国の地形とかを全く知らない。それを言うと当然驚かれたけど、遠いところから来たと言えばすぐに地図を出してくれた。形は違うけど、戦国時代の日本見たいな地図。
「中央のまっさらなところが聖域な」
それから、ひとつずつ指さして領の名前も教えてもらった。太めの線で区切られた中には必ずひとつ凸みたいなマークがあった。領主邸宅のあるところらしい。
他にもいろいろ聞いたけど、ぶっちゃけカタカナばっかりなので全然頭に残らない。私がわかったのは聖域とカルヴァン領、レオハルト領のみ。……ま、まぁ、今は現在地と目的地だけわかれば、ね!細かいところは追々、ね!!
むりやり笑う私を、ルトヴィアスさんは苦笑いしてみていた。
「慣れない土地に迷い込んで疲れただろう。すぐに風呂の用意をするから、しばらく休むといい」
「いえ、でもお世話になるのにそんな…私も何かお手伝いさせてください」
ルーグさんのところではそれを仕事にしている人がいたけど、今回はそうじゃない。せめてそのくらいはと申し出ると、ルトヴィアスさんはきょとんとして、それからバラの花がほころぶような笑顔を浮かべて私の手を取った。
「美しいだけでなく慎み深い……それもまた君の美点なのだろうけれど、この柔らかな手を痛めてしまわないか心配で堪らない。どうか俺に任せて、部屋で待っていて」
――――何言ってんだこの人。
私が真顔になったのは、言うまでもない。




