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異世界で恋に落ちました  作者: 藤野
第十三話
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6

 「あの人のこと、気になるの?」


 あえて率直に聞いてみたら、美帆は面白いくらい盛大に顔を赤くさせた。わたわたと落ち着きをなくして手をぶんぶん振り回すのがなんだか可愛らしい。


 「いいよいいよ、あっち行っておいでよ。そういうためのこれなんだから」

 「でっ、でもっ!そしたらまたあいつ……!」

 「だぁいじょうぶだって。いざとなったらトイレとか言って勝手に帰るし」


 だから行っておいでよ、ともういちど勧める。美帆はそれでもまだ迷ってたけど、何かあったらすぐに呼んでね、と何度も念を押してからようやく素直になった。その背中を見送って、手元のグラスをぼんやりと見つめた。

 茶色い液体の中にぷかぷかと浮かぶ氷。ちょっと味気ない。


 (こんなはずじゃなかったんだけどなぁ……)


 なんて思ってみても、じゃあどうなるはずだったのかと考えると答えは出ない。どこで間違えたのか、なんて自問も無意味だ。だってどこでも間違えてないんだから。

 手慰みに、ストローで氷をつついてみる。一瞬茶色に沈んだそれは、すぐにまた表面に浮かんできた。

 美帆は、最初は少しぎこちなかったけど、今はうまく馴染めたみたい。明るい笑い声が聞こえてくる。もともと人好きのする性格なのが良かったのかな。さっきの人も、美帆には随分積極的なように見える。


 「ねぇねぇ、森山さん」


 ふいに声を掛けられた。あ、さっき引いてた人だ。


 「隣、座ってもいい?」

 「あ、うん」


 どうぞ、と体をずらす。彼女はありがと、と空いたスペースに腰を下ろした。

 私の隣に座った彼女は、私に何か話しかけてくるわけでもなく、でもなぜか私から目を逸らさない。


 「あの、私の顔に何か付いてたりする?」


 不安になって聞いてみるけど、彼女は笑顔で首を振る。え、じゃあなんなの?なんでそんなに見つめてくるの?わけがわからないよ。不安がさらに増した。


 「森山さん、私の名前わかんないでしょ」


 躊躇いなく言い切る。

 図星を指されて、ごまかすこともできずに言葉を詰まらせた。顔は、わかるんだよ。話したこともあるし、顔見知り以上友達未満な関係だったことも覚えてる。けど、名前が正直思い出せない。


 「……ごめん」


 申し訳なくて素直に謝る。


 「言い訳しないんだ?」


 即座に返されるけど、言い訳のしようもないし、私が悪いってことも自覚してるから謝るのは当然のことだ。

 それをどう受け取ったのか、彼女は大きく笑い出した。机を叩きだしそうな様子で、お腹まで抱えて笑っている。

 ひぃひぃと苦しそうに息継ぎしながら、目尻に滲んだ水気をそっと拭った。


 「あー…笑った笑った。森山さん、なんか雰囲気変わったね」

 「そう、かな?」


 還ってきてから何度も言われてきたこと。私、そんなに変わったのかな。自分じゃよくわかんないや。

 不思議そうにしていたからか、彼女はまた笑って、やっぱり変わったとまた言った。


 「前の森山さんも悪くなかったけど、今の森山さんのが好きだな」

 「あ、ありがとう?」


 これって、褒められてるんだよ、ね……?

 はっきりとしなくて対応に困っているとまた笑われた。こんな笑うこだったっけ?

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