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「さつきってそういう話全然しないよね。なんで?」
「なんでって聞かれても……」
私は困り顔で曖昧に笑った。そんなこと聞かないでほしい。答えを一番聞きたいのは私自身なんだから。
私の恋が、夢幻じゃないってことはわかってる。そう思いたくなるくらい叶わない恋だってことも。
漫画とかテレビとかで見る恋は、悩んだりすることがあってもラストは必ずハッピーエンド。めでたしめでたし、で締めくくれてしまってたから、私はずっと恋を素敵なものだと思ってた。きらきらしてて、幸せになれるもの。
でも、実際にはそんなことはなくて。辛いし苦しいし、たくさん泣いた。プラスばっかりじゃないってことを知ってしまった。
私は弱いから、卑怯だから、伝えることもできなかったけれど。
でも、もう恋愛に夢見ていた頃とは違うんだ。
「美帆はさ、そんなに恋したいの?」
美帆はきょとんとしてから、すぐに大きく頷いた。
「だって、彼氏がいるといないとでは毎日が全然違うよ。オシャレにも気合い入るし、楽しいし」
自分で聞いておきながら、あれこれと列挙される恋するメリットに大して共感はできなかった。全くとまではいかないけれど、でもやっぱり違う。私にとって美帆の言う恋も作り物と変わらない。
だって、私は怯えてた。いつ別れるかわからなくて、ずっと。ルーグさんと一緒にお茶したりしていても、今この瞬間にも終わってしまうんじゃないかってどこかで考えてた。
「……さつきって、もしかして好きな人いるの?」
慎重に言葉を選んでの問いかけ。これに頷けたらよかったのに、私はそのタイミングを逃してしまった。
余計な言葉が口を突いて出る。
「美帆みたいに幸せな恋ができたらよかったのにね」
心にもない、無い物ねだり。やだな、嘘が癖になってる気がする。自分の恋に後悔なんてしてない癖に、我ながら良く言う。
思わず自嘲の笑みがこぼれた。
美帆は何か言い足そうにしていたけど、結局何も言わずに逃げるようにして講義室に去っていった。
そりゃそうだよね。いきなりそんなこと言われても困るだけ。
悪いことしちゃったなとは思うのに、どうしてか改めようとは思えなかった。こんなの八つ当たりだ。わかってるのに、反省する気になれなかった。大学生になったのに、まだまだ子供な私。
こんな私、嫌いだな。
考えることに疲れて、重く感じる体を気怠く動かして図書館に向かう。講義に出る気にはなれなかった。




