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ゆっくりと、感触が遠退いていくそれに寂しいと思った。
それが顔にも出てしまっていたのか、ルーグさんは困ったように微笑んで、今度は額に唇を寄せた。
「だめですよ、そんなに隙を見せては」
そうは言われても、どうすればいいのかわからない。だって、そんなつもりは無いんだから。
優しい手つきで頭を撫でられる。それから、ルーグさんは一歩、後ろに下がった。
「他の者には私から申し伝えます。さつき様は、先にお戻りください」
急なことに驚いていると、切ない表情でルーグさんが首を振る。
「行ってください。どうか聞き入れて。私が無体を強いてしまう前に、どうか」
もう一歩、ルーグさんが後ろへ下がる。苦しげに顰められた顔を見せられて、嫌だなんて言えなくて。後ろ髪を引かれる思いで、元来た道を辿った。
(私は、どれだけあの人を傷つければ気が済むんだろう)
人目を避けて言われたとおり部屋に戻ると、すぐにローザさんがやってきたけど、お願いして一人にしてもらった。何か言われるかと思ってたのに、ローザさんはあっさりとしていて、「慣れない人混みで疲れたのでしょう」って言って、お風呂の用意までしてくれた。
温かいお湯が張られた浴槽に浸かると、やっと体中の強ばりが解けていった。
今は、部屋のベッドの上。整髪剤もお化粧も、全部落としてすっきりとした気分のはずなのに、胸の中はまだ晴れないまま。疼いて仕方がない。肌触わりのいいコットンのネグリジェも、柔らかい羽毛の枕も、清潔な白いシーツも、気分を落ち着けてくれない。
「苦しい、なぁ………」
なんて。本当は、私が言っていいことではないんだろうけど。自業自得の癖にね。
ふっと口元が緩んだら、一気に眠気が押し寄せてきた。意地悪だ。まだ考えたいことがあるのに。誰にとも無く舌打ちするけど、そんなことで目が覚めるはずもなくて。
結局は、睡魔に負けて目を閉じた。もう目は開かない。腕も足も、体中が何かに圧し掛かられるように重くなっていく。
混濁し始めた意識の中で、寝るんだな、とだけ思った。
―――それだけの、はずだったのに。
「―――さつきー?帰ってるのー?」
「…え?」
私は、自分の部屋にいた。




