蘇生魔法は30分以内に
冒険者パーティのリーダーである俺は、ダンジョンの最深部で命を落とした最愛の妻であり魔法使いのノエインを生き返らせるため、全財産を叩いて聖堂の門を叩いた。
「亡くなって半時以内ですか?それ以上はダメです!」
「はい、半時以内です」
もちろん嘘だ、ダンジョンから走って連れて来たんだ、今更あきらめられるか。
儀式は成功した。
まばゆい光の中、ベッドに横たわっていたノエインがゆっくりと目を覚ます。
「……ここは?」
「ノエイン! よかった、本当に本当によかった……!」
俺は涙を流しながら彼女を抱きしめた。
肌の温もりも、懐かしい香りの記憶もそのままだ。
自宅に戻り、数日ぶりに彼女が作ったスープを口にする。いつもと味が違う気がしたが、生き返ったばかりで感覚が鈍っているのだろう。
ノエイン自身も、以前と変わらぬ優しい笑顔で俺の話を聞いてくれた。
すべてが元通りになった。そう確信していた。
しかし、3日目の夜。
隣のベッドで眠るノエインの様子がおかしいことに気づいた。
月明かりに照らされた彼女は、一晩中、一睡もせずに天井の一点をじっと見つめたまま完全に静止していた。呼吸による胸の上下すら、驚くほど小さい。
「ノエイン……? 眠れないのかい?」
声をかけると、彼女は首だけをこちらに向け、微笑んだ。
「ううん、幸せすぎて、寝るのがもったいないの」
その人形のような作り物の笑顔に、得体の知れない違和感が走る。
翌日、俺は彼女の行動を観察することにした。
街を歩くノエインの足取りは軽い。だが、彼女は「まばたき」をほとんどしない。
さらに、彼女が荷物を持とうとした時、うっかり机の角に腕を強くぶつけた。鈍い音がして、皮膚が破れ、赤い血が流れる。しかし彼女は眉一つ動かさず、笑顔のまま「あ、ごめんなさい」と言って布で拭った。痛覚がないのかもしれない。
極めつけは、その日の夕食だった。
彼女が用意したのは、俺の大好物であるはずの「オーク肉煮込み」だった。
一口食べた瞬間、俺は吐き出しそうになった。完全に腐敗している。凄まじい悪臭と、舌が痺れるような腐肉の味が口いっぱいに広がった。
「美味しい?」
ノエインは、その腐った肉を嬉しそうに口へ運び、咀嚼している。
俺は恐怖に耐えかねて、ノエインが眠った後、彼女を蘇生した大神官の元へ走った。
深夜、神殿の奥に神官を引っ張り出し、胸ぐらを掴んで問い詰める。
「おい! ノエインの様子がおかしいんだ! あれは本当にノエインなのか!?」
大神官は、狂乱する俺を憐れむような、冷徹な目でじっと見つめ、静かに首を振った。
「……やはり、嘘をついていたのですね?」
「どういう意味だ!?」
「死者の新鮮な肉体は、呪文で修復できます。しかしですね、すでに冥界へ旅立った『魂』を連れ戻す術など、我々は知らないのですよ」
神官の言葉に、全身の血が凍りついた。
「じゃあ……今、ノエインの体の中にいる『あれ』は、一体何なんだ……!」
「分かりません。ただ……肉体という完璧な器が『空っぽ』で置いてあれば、暗闇に潜む『何か』が、喜んで中に入り込む。彼らは人間のふりをするのが、とても上手ですからね」
神官は十字を切り、哀れみの声を絞り出した。
「お気をつけなさい。あれは、自分が人間ではないと『あなたに気づかれた』と悟った瞬間、その本性を現します。殺す準備と覚悟が決まるまでは、どうか気づかないふりを――」
◇
「待って、あなた」
神殿からの帰り道、背後から聞き慣れた声がした。
振り返ると、後ろからノエインが小走りに近づいてきた。
しかしその姿は常軌を逸した。
ナイフを振り上げ、その口元はニタリと笑っている。
「ずっと後をつけてたの。……ねえ、気づいちゃった?」
そう言うとノエインだった何かはナイフを躊躇なく振り下ろした。




