ヘタレ騎士団長と穏やか(?)王子
俺は、レヴェリア王国の第一騎士団・騎士団長レオンハルト・ヴァルグレンだ。幼少の頃から騎士団に入り、その後の成果を買われて若くして騎士団長まで上り詰めた。
俺がお守りするのは、次期国王たる第一王子のクロード・フォン・レヴェリア様だ。クロード殿下は穏やかで柔和な笑みを崩さず、いつも臣下に優しくしてくださる聖君だ。
そんな方にお仕えし、国を守ることができるのは誇り高い。そして、誰にも言えずにいるが、クロード様へは主君への敬慕だけでなく、なんと言うか、その多少邪な気持ちもある…。やはり、美しい顔で優しくされると、くらっと来てしまう。
「ヴァルグレン団長、訓練中失礼します。伝令です。殿下がお呼びです。」
「クロード様が!?分かった!すぐに行く!」
クロード様のお呼び立てに、俺は喜んで訓練場を飛び出す。クロード様には、俺がいつでもすぐにクロード様の元へ駆けつけられる最高の騎士団長として映っていて欲しいからだ。
しかし俺は気付いていなかった。誰にも言わないでいた気持ちがすでに城中に筒抜けであったことに。
「団長、絶対殿下に恋してるよな…。」
「わかる。殿下の話になると分かりやすくテンションあがるし。」
「そもそも殿下もお気付きなのでは?気付いて泳がせてるようにしか見えない…。」
「でも殿下のお気持ちはあんまり分からないよな…。」
✻✻✻
クロード様の居室へと辿り着いた俺は、すぐに扉をノックし「失礼します!」と張りのある声を上げる。「入れ」と言われ入室する。
クロード様は髪が黒くやや幼く見える。常に微笑みを浮かべ穏やかな表情が、逆に掴み所がなく警戒を煽るという評価もあるが、俺にとっては真逆だ。繊細で優しい第一王子。俺が守らなくてはならない。
「クロード様!何か御用でございましょうか。」
「レオンハルト。来てくれてありがとう。いつも来るのが早くて助かるよ。さすが、第一騎士団の団長だ。」
「は!勿体なきお言葉です!」
俺は跪き頭を垂れながら内心デレデレになりそうな顔を抑えるのに必死だ。クロード様は第一王子という高位の存在でありながら、下々への礼儀を決して忘れない。そういったところも君主として尊敬しているが、何より褒められると嬉しい。
「今日来てもらったのは他でもない。お忍びで城下町へ行きたいのだ。そのための護衛を頼みたい。」
「お忍び…ですか?それってデー…いえ、何かしたいことがあるのですか?」
「ああ。大好きな人に贈り物をしたい。好みの物が分からないから、一緒に選んで欲しいのだ。」
「えっ…?」
大好き…!?だ、誰のことだ…!?
「それは国王…お父君ですか?それともお母君ですか?」
「いや、違う。」
「では、どこぞのご令嬢ですか?」
「いや、違う。」
「ま、まさか、男性だとは仰らないですよね!?」
「そうだが。」
まさか肯定されるとは思っておらず俺は愕然とする。
いずれ王女となられる方のためのプレゼントならいざ知らず何処の馬の骨とも知れない男のために一緒にプレゼントを選ぶなんて……!
俺はショックがデカすぎてパニックに陥る。
「クロード様!お言葉ですが男性への贈り物は勘違いを助長させるので控えた方がよろしいかと!そもそもクロード様は男性でこの国の未来を担う宝!男性同士など不埒!」
必死の形相で訴えかける。お忍びで城下町デートはちょっと、いやかなり魅力的だが、知らん男のプレゼント選びはさすがにいただけない。
どこの誰だか知らないが、クロード様への想いは絶対に俺の方が上だ。それに俺は傍でお仕えしお守りできさえすればいい、と思っている。俺の方が健気で好感度が高いに決まっている。
クロード様はしばし沈黙した後、「そうか」とだけ呟いた。……?心なしか目が笑ってないような。
「では私一人で選ぶことにする。城に商人を呼ぶので城下町へも行かなくていい。」
「は!では商人の手配を——」
「よい。私が自分でやる。レオンハルトよ。お前は下がれ。」
「……は!」
何だか突然冷たくなったような……?クロード様の真意を掴めぬまま俺は訓練へと戻った。
✻✻✻
翌日。再びクロード様からお呼び立てがあった。居室へ赴くと、大きいテーブルの上に所狭しと色彩豊かな宝飾品が並んでいた。ピアス、ネックレス、ブレスレット、ブローチ…どれも高そうな宝石がキラキラと輝いている。
「クロード様、これは…?」
「レオンハルト。お前への贈り物だ。好みが分からなかったから、多種多様な宝飾品を用意した。」
「へ…!?俺、に…!?」
『大好きな人に贈り物をしたい。好みの物が分からないから、一緒に選んで欲しいのだ。』
大好きな、人——
この、大好きな人、とはまさか——
「クロード様!あの…俺…あ、いや私も、クロード様のことが——」
「ああ、返事は要らない。」
「…………え?」
いつもの穏やかな微笑み。そのはずだが、何だか冷気を感じる。
「男性への贈り物は勘違いを助長させる、と。それに男性同士は不埒だと。」
「あ…………。」
「宝飾品は要らなければ売るなり捨てるなり好きにしてくれ。売れば、騎士団長などやらなくとも贅沢して暮らせる程度の金は手に入る。」
「そ、その…あの…!」
俺はあの時男性同士を否定してしまった自分をひどく恨む。自分の想いを告げたいが、クロード様には完全にシャットアウトされている。
言葉に詰まるが、それでも俺は俺の気持ちをクロード様に分かって欲しかった。
「クロード様…!わ、私の話を……!」
「私は返事は要らぬと言ったぞ。それに私には政務がある。もう下がっていいぞ。」
「うぅ……!」
取り付く島もなかった。泣く泣く俺はクロード様の居室から出ようとする。
「どうしても——」
「え……?」
「どうしても話がしたいのであれば、夜なら空いている。」
「ほ、本当でございますか!?」
「ああ。夜にまた来るといい。団服だと汚れてしまっているかもしれないから、部屋着に着替えてきてもらえると助かる。」
「承知いたしました!では、夜にまた伺います!」
すっかり立ち直った俺はクロード様の部屋を後にする。ついぞ、妖しく笑うクロード様に気付けなかったのだった。
End




